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車内
秘書は駐車場出口付近でクルマが消えるのを確認したが、車内にいる会長は駐車場を出る前に記者らに見つからぬよう思わず顔を伏せた。
「大丈夫ですよ。そんなことしなくても。誰も見ていませんから」
会長はおそるおそる顔を上げた。
「おい。これは一体どういうクルマなんだ? 秘書が安心して逃れられるタクシーだと言っていたが」
「普通のタクシーですよ」
「なら、記者が出待ちしてたらすぐ見つかるじゃないか。逃げ切れる運転技術でももっているのか」
「ここを出た事実は誰にも知られません」
「どうして断言できる」
「このクルマは一時的に消えるからです」
「消える?」
会長は驚き、おでこを窓に当てて流れる景色を目の玉で追う。そこには街並が、人が、あたりまえの光景が映る。会長は窓を開け、外気を取り込み通行人に手を振った。
「ほらみろ。今あいつと目が合った。私を不思議そうに見ていたぞ。消えてないじゃないか」
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