プロローグ〜二人の邂逅〜

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プロローグ〜二人の邂逅〜

「私は竜ではありません。人間でもありません。何かが化けた虚像でもありません」  一人の女性は、尻もちをつき女性を指さし震える男に、そっと手を差し伸べて自らのことをこう表現した。 「私は、旅の最期に道連れを成すことで、みなに幸福を還すことができる残滓なのです」  女性は柔らかく微笑み、樹木が陽光を遮り切り落とした影は彼女のその表情を静かに撫でた。  向こうに見る限り原っぱが広がり、冬が過ぎて間もない温い風は草木の上を忙しなく寝返る。  そんな景色を見下ろすこの崖の上の、森の果てで女性と出会ったのが男にとっての旅の始まりだった。
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