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薄暗くなり月が出る頃、狭い路地で男は倒れていた。
スーツは所々破れ、髪が乱れている。
頬には痛々しい擦り傷があった。
今にも死んでしまいそうな男は、虚ろな目を薄く開き、俺の手元を見つめる。
「どうやって……」
と呟く男の目からは涙が溢れ、安堵の表情を浮かべた。
「これは…… あ、ありがとうございます。本当に……ありがとう」
そう言うと、込み上げてくる嗚咽を我慢することなく、男は号泣する。
あんな事がなければ、スーツでかっちりときめていたこの男が子供みたいに情けなく泣くこともなかったはずなのに。
見つかった喜びもつかの間、男は逃げるように去っていく。
突然のことで呆気にとられて、俺はその場で立ち尽くしてしまった。
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