約束のカラーボール

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地元の友達の敦から電話があったのはつい先日のことだった。 「おう、拓哉。元気してる?」 「まあ元気やで、どしたん急に?」 地元人と話すときはいちいち言葉回しに気を遣うことなく発言できる。ぴったりと自分の中でイントネーションとテンポが当てはまるありがたさは、上京してないと味わえなかっただろう。 「今年って平太のさ、三回忌あるやん」 「ああ、せやな」 敦の名前がスマホ画面に浮かんだのを見た瞬間に、その話であろうということは察しがついていた。 「地元に残ってる組は一緒に平太んちに挨拶しに行こうと思ってんねんけど、拓哉どうする? 行くんやったらおれらと行こうや。距離的に戻ってくるのも簡単じゃないやろうから、行かれへんなら行かれへんで気にせんでもらってええんやけど」 平太の三回忌。平太は小学校からの同級生だ。行かないわけにはいかないし、一人でも平太の家には顔を出すつもりだった。 平太は部活も俺や敦と同じ野球部に所属していた。休みがちで、運動はあまり得意ではなかっただろうに、中学の頃は三年間最後までベンチで声を出し続けてくれていた。 「俺も行くつもりやったよ。特に用事が入ってるわけじゃないから地元帰るで。来週中に日にち決めといてや。そっちに合わせるわ」 「おっけー、了解」 通話の終わったスマホ画面をそのまま画像のライブラリに切り替えた。なんとなくあのころの写真を見たくなったのだ。集合写真は全員坊主頭で大学の友達が見ても俺がどれかわからないだろう。 髪がだいぶ伸びてしまった。思わず目にかかった前髪をつまむ。色も抜いているし、野球少年だった名残なんて今の俺からはみじんも感じられないだろう。 地元の友達に野球を辞めたことは言っていなかったから、今回このままの髪で会ったらさすがにバレそうだ。野球を続けているとも言ってないから嘘をついているわけではないのに、なんとなく後ろめたい気持ちになる。
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