約束のカラーボール

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幼なじみの平太は高校でも野球部には所属していたが、マネージャーとしてだった。小学校からの付き合いだから、なんとなく病弱であるというのはその頃には俺も分かっていたが、三年生を迎え症状は重くなり、とうとう外出ができないほどになった。 「平太みとけよ、明日の試合ぜったい勝ったるからな。俺のホームランボール持って来たるわ」 その日は翌日に高校最後の地区予選を控えた金曜日だった。相手は甲子園に何度か出場した実績のある古豪だ。 俺たちは試合の度に練習着姿のまま平太の病室に通っていた。俺の分も含めて、野球部のでかいエナメルバッグを二つさげた敦を後ろに乗せ、病院までの坂道を登るのはけっこういい運動になる。 その日の俺の安打率や敦の投げるえぐるようなスライダー、幸太郎のグラブさばき、充の奇をてらったタイミングの盗塁。 平太は本当にそれを実際に見て体感しているかのように目を輝かせて、俺たちの話に耳を傾ける。それは小学校のころ、遊びでやっていた野球で俺たちのプレーを見ていたころと全く変わらない純粋な目のままだった。 「頑張ってな、キャプテン」 平太は邪気のない笑顔で答える。いつのまにか肌が病室の壁や天井よりも白くなっている。 今回の大会で負けたら自動的に三年生は引退ということになる。選手として試合に勝ちたい気持ちはもちろんあったが、それよりも平太に少しでも長く野球部員でいさせてあげたいという気持ちが強かった。 たぶん小学校からの付き合いの敦たちも同じような気持ちを持っていたはずだ。
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