約束のカラーボール

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そして最後の試合を俺たちのチームは六回コールドで負けた。俺は一本もヒットを打てなかった。 いくら相手が強かったとはいっても、いつもどおりのプレーができたとはとても言えない試合内容だった。気負いすぎていたことなんて言い訳にできない。俺はキャプテンとしても平太の友達としても、この程度の人間だったのかと打ちのめされた。 点差が二桁になったころには、早く終わってくれと願う自分がいた。 試合が終わった後の足で平太に勝敗を伝えに行く。 「すまんかった、何もできんかった。約束、守れんかったわ…」 平太は歪みそうになる顔を必死にこらえ、なるべくいつもの笑顔をふりしぼろうとしていた。あのときの平太の表情は克明に俺の記憶に刻まれている。ホームランを打つなんて大口をたたいておいて。情けなさに俺は押しつぶされそうだった。 謝る俺の言葉に対して、平太は力なく首を横に振った。 「たっちゃん上手いんやから大学でも頑張りよ。東京の強いとこ行きや、僕も退院したら応援行くから」 「お、おう、まかせときや」 とっさにおれはそう答えた。歯切れの悪い返事になってしまった。 そして、平太が病院を出ることはなかった。 平太にとってあの言葉はどれほどの意味を持っていたのだろうか。なんとなく社交辞令的に言ったひとことなのかもしれないし、自分の願いや思いを託したもののようにもとれる。
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