0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あっれー? なんで二人もおるん? 今日現地集合とちゃうの?」
少し離れた公園の出入り口には幸太郎と充がいた。久しぶりなのに、一瞬で認識してしまうのはきっと飽きるほど顔を合わせていたからだろう。
「俺らもさっきここでばったり会ったんよ」
敦が手をとめて、二人に言った。
幸太郎が歩きながらこたえる。
「俺らと一緒やん。なんか家の前の足跡ついてったら、充に出くわして、そのままここに来たんよ。久しぶりやなあ」
「それ何もってんの」
俺は充の右手をさした。その手には黄色のプラスチックバットが握られていた。子供の頃よく遊びの野球で使っていたたぶん百均ととかで買える安いやつ。
「さっきそこで拾った」
なんとなく、あの足跡の正体が分かった気がした。
「なあ、ボールもあるし、野球しようや」
敦が振りかぶって二人にボール投げる真似をする。
「えー、この寒いのにー? 俺ら運動ぜんぜんしてないから動かれへんよ」
充がすねた声をもらす。でも、言葉の割には嫌がっている様子ではない。
「そういや昔よくここでやったな」
少し頬に肉のついた幸太郎が公園をなつかしそうに見渡した。たぶんこの視線の先には雪で覆われていないあのころの景色が広がっているんだろう。
俺たちはチーム分けもポジション決めもせずに、思い思いに散らばった。
「よしゃ、やったるで」
敦が肩をぐるぐると回している。マウンドに立つ前の癖だ。
俺たちのした野球はぐだぐだだった。それなのにいままで真剣に取り組んだどんな試合よりも楽しい。
幸太郎は思いきりからぶるし、充はぼてぼてのゴロで雪の中を全力で走っていて、白い息を吐いて走る姿は蒸気機関車みたいだ。
俺も含め、照りつける太陽の下で白球を追いかけていた姿は見る影もなっくなっている。
俺はバッターボックスに立つ。敦が腕をふりきってボールを投げた。
「あ」
軽く振ったバットは中身が空洞のはずなのになぜか真芯にあたったような感覚だった。しかしフォームはバラバラで、その感覚はどこか客観的で、普段の自分にはない動き方をしたような気がした。
ボールはそのまま公園の外に飛んでいく。ちょうど、フェンスの向こうの河川がある方だ。
最初のコメントを投稿しよう!