第1話『朧月の夜、少女の運命は狂い始める』

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 でもかすりは新橋の遅刻にそこまで不安を感じなかった。 新橋はかすりより14個上。歳が離れているのもあって関係は婚約者というより兄妹の方が近かった。 かすりが物心つく頃にはもう結婚することが決まっていた。この国では普通のこと。そのことに疑問を持つこともない。 新橋の家はこの村の中でも裕福な家庭であり、その家に嫁ぐことを学校の同級生にも羨ましがられた程だ。 普段は村の役所に勤めていて、休みの日には一緒に過ごすのが当たり前。家族の次に近い存在。 優しい彼と結婚できることをかすりは楽しみにしていたし、新橋が約束を破ることはないと信じている。 だから、多少の遅刻は気に留めることではないのだ。  そう思ってはいるのだが、それにしても遅い。約束の時間から1時間が経とうとしていた。
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