245人が本棚に入れています
本棚に追加
※
―時は少し遡る。
木の芽立ち、花々が咲き誇る季節。温かな陽光の下で、かすりは真っ白に洗いあげたタオルを物干し竿から取り上げていた。タオルには、風に誘われてきた桜の花びらが付いている。1つ取って風に流せば、花びらはひらひらと飛んでいく。
「もう、お姉ちゃん。誕生日まで働かなくていいんだよ」
「いいの。学校を卒業して暇なんだもん。このくらいさせて」
「真面目なんだからー」
かすりの隣に立ち、残りの洗濯物を取り込むのは妹のひわ。暗い黄緑色の髪の毛は、肩につくぐらいで切りそろえられている。小さい頃からかすりの後をついて回っては、真似ばかりしていたひわも、今ではしっかりとした女の子だ。
「あーあ。こうやって一緒にいられるのも今日までかぁ…」
「なーにしみじみしてるの。同じ村の中に住むんだから、いつでも会えるでしょ」
「でも一緒にはもう住めないもの」
10歳にしては大人びて見えても、こういう所は年相応。寂しがってくれる妹に笑みが零れた。
「可愛いこと言って。このこのー!」
「もう、やめてってば。私の髪はお姉ちゃんみたいに癖が無い綺麗な髪じゃないんだから」
「えーそお?変わらないって」
「変わるもん!」
ひわは、かすりの背中まで伸びた、ひわの髪色に少し鶸茶が混じった髪の毛をするりと撫でた。光に反射した髪には光の環が出来ている。
最初のコメントを投稿しよう!