閉ざされた世界

4/4
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「俺さぁ、ずっと奏斗が好きだったんだ。だからさ……付き合って欲しい」  ここに来るまで悩みに悩んだ。  こんなことを言って、本当に大丈夫なのか。自分がこれから先、奏斗を支えていけるのか。それでも自分に好意が向けば、雁字搦めになっている祐助のことから、少しは離れられるんじゃないのかという打算もあった。  もちろん好意もあってのうえだ。変わり果てた奏斗を見ても、その気持ちに変わりはない。  奏斗の目が少しだけ驚いたように見開かれるも、すぐさま表情を失った。 「僕もね、亮汰が好きだよ。でも君とは付き合えない。祐助と付き合っているの、知ってるでしょ」  そう言って「亮汰が僕を好きだってさ」と言って、単調な笑い声を玩具に向けた。 「そろそろ時間です」  医者に告げられ、俺は力なく頷く。 「奏斗。また来るから」と言って、いつまでも玩具に向けて話し続ける奏斗に背を向ける。  病室を出て、ドアが閉まる瞬間まで俺は奏斗を見つめ続けていた。  まるでこっちの世界と、向こう側の世界を分けるように、ドアが目の前の光景を遮っていく。  最後の瞬間まで、奏斗の視線が俺に向けられることはなかった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!