お見送り

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 僕はその様子を見送ってから、やっと口を開いた。 「人間生活ご苦労様でした。貴方のように他人を貶め、礼儀を掻き、思いやれないような穢れた魂は、虫からやり直してください」  僕はにっこりと笑う。それから外側についている閉まるボタンを押す。 「きっと、奥さんもお子さんも、お父さんが二度と人間に戻れないことを喜んでいると思いますよ。虫として、一から魂を清めてきてください」  閉まりゆくドアの向こうで、唖然としているおじさんを僕は笑顔で見送る。  きっと今頃、扉を殴りつけているはずだ。  僕は地下五階にランプがつくのを見送ると、踵を返して受付に向かう。 「ありがとうございます。助かりました」  女性が僕に頭を下げてくる。 「いえいえ。お役に立てて何よりです」  僕はそう言ってから、カウンターに置いていた自分のカタログを手に取る。 「まだお決まりになりませんか?」  女性が僕の手にあるカタログに、目を落とす。 「そうですね。僕はしばらく、ここにいようと思います」 「せっかく良いカタログをお持ちなのにですか? それに貴方様は特例なのですよ。基本、自死の場合は転生が難しいとされているので」  女性は気の毒そうに僕を見る。それに対し僕は、笑顔で首を横に振った。
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