忠  義

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なんの兆候もない死でありました。 寸前まで凛たるヨシでありました。 午後の散水の"お供”が 最後の仕事で ・・・ありました。 いいえ、最後の仕事は 別れた我が子に添い寝… それから… 「魂が…挨拶にきたんやなあ…」 母が言いました。 「“忠”を心得た、女武士やった」 祖父は涙を零しました。 「“忠”?」 「そうや…アイツには  “忠”があった。一途に  自分の仕事に精進してくれて。  畑を、ワシらを守るために  死を覚悟して敵を怒る声は  一点の曇りもなかった…。  だからワシらも“義”で応えた。  必死にユウを守ってきた。  それをヨシは解っているから  ユウを心配せずに働けた。  仕事と簡単にいうけれど  そこには“心”が存在するんや。  心を無視した仕事は浅い、  後悔しか残らんもの。かというて  人間には“雑念”がある。  けど、ヨシにはそれがないんや。  子供達にもそれはない!  皆、一心不乱に“忠”を尽くして  くれるやないかあ…なあ…  それやのに…ああ…  オマケにユウの礼まで  言いにくるやなんてぇ…」 代々儒学者であった末裔に 相応しい祖父の言葉に 相応しいヨシの生涯。    
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