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鬼子との対峙(一)
翌日である。
晴道と玉瀬は、日が昇ると再び山に入った。今日は、村から握り飯や漬け物を持参している。
適当な場所で足を止めると、彼らはまず、着物を脱いだ。
「葛。近くにいるんだろう? 昨日は、いきなり悪かった。もうお前を攻撃はしないから安心してくれ。ほら、危ない物は持ってないぞ」
葛というのが、鬼子の名だ。
脱いだ物をなびかせながら、晴道が声を張った。丸腰だと説明するには、実に手っ取り早い方法である。
玉瀬も、同様に敵意がないことを示しつつ、言葉をかけた。
「今日は美味しい食べ物もあるんだよ。気が向いたら出ておいで。一緒に食べよう」
元より、我慢比べの覚悟である。
待っているからと言った後、彼らは着物を羽織直して座り込み、本当にひたすら待ち続けた。
やがて月が出始めても、二人は山を下りようとはせず、火を焚くこともない。幼子の気配は行ったり来たりを繰り返している。
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