水遊び

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

水遊び

 ぱしゃん、ぱしゃん。  見慣れた自分の足の隣で、見慣れない細い足が水を蹴る。  ぱしゃん、ぱしゃん。  白くてきれいな素肌がまぶしい。何故か見てはいけないものを目にしている気がして、少年は目を逸らした。  私服姿というだけでどこか落ち着かないのに、制服のときとは違って膝下が靴下で隠れていない。たったそれだけのことでも、十分刺激が強かった。 「気持ちいいね」  冷たい。なんて、にこにこしながら彼女は涼を楽しんでいる。 「そうだな」  応えて、心地よさにひたるふりをして少年は口を閉じた。体が熱をもち過ぎて、自分の足下だけ温くなっている気がする。  彼女が足を遊ばせるたびに水面が小さく波打って、水に浸かっていない部分を濡らしては引いていく。脚をくすぐるそれは、火照る肌にはちょうど良かった。 「アイス、残しておけばよかったなぁ」 「着く前に溶けてるよ」 「うん」  少女の笑みを含んだ相づちに、少年の口角も柔らかく上がる。穏やかな川のせせらぎに二人の小さな笑い声が混ざった。  ふと、少年は上を見上げた。爽やかな色を放つ空に目を細める。ここに着いた頃より、日差しが強くなっている気がする。  まぶしい白雲から視線を外した少年は、頭の中でさらなる避暑先を挙げていった。  隣で水面を覗く彼女を見る。気付いた彼女が首を傾げて見上げてくるのに合わせて、選んだプランを口にした。 「かき氷食いに行こ」 「わあ、いいね!」  小さな子どものように瞳を輝かせた彼女に思わず笑う。普段より幼さを含んだ無邪気な反応が可愛い。彼女は笑われた理由に気付いたのか、目が合うとはにかむように破顔した。  細い足が、水の中で静かに揺れる。ゆら、ゆら、と水の流れを緩くかき混ぜてから、微かな水音と共に水面から引き上げられた。なめらかな肌に水滴が残り、透明な線を描きながら滑り落ちていく。乾いた石の表面が、ぽつぽつと色を変える。  少年はそこから目が離せなくなる前に顔を逸らして、同じように川から足を上げた。 「半分こしてもいい?」 「ん? ああ、味比べするか」 「ううん。一緒に食べよ」  隣を見る。彼女から差し出されたタオルを咄嗟に受け取った。彼女はどこかいたずらっぽく、けれど楽しそうに、 「ふたりで一つ、ね」  と、顔いっぱいに笑って言った。 「――わ、かった」  鼓動が体中に響く。頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。 「……さっき、アイス食ったしな」  情緒の欠片もない。  思わず頭を抱えそうになった少年は、しかし嬉しそうにうなずいた少女につられるように、眉を下げてほほ笑んだ。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!