痣

契約

　【本当に、よろしいのですか？】

　闇の中に、パソコンの画面がぼぅっと浮かび上がる。

　「良いんですよ。この厄介な物を消すだけでね」

　パソコンに向かう人物は含み笑いを漏らしつつ、左の頬から首にかけて指を滑らせた。
　冷えた空間に、キーボードを叩く音だけが響く。

　【後になって変更では困りますよ】

　相手との交渉は続いている。

　「もちろんです。きっちりお支払いしますよ。三千万」

　そう答えた直後、階下から物音がした。
　応接室に仕込んだカメラの映像に切り替えると、ずぶずぶに肥えた老人が真紅のガウンを纏い、暖炉を背にして立っている。

　──胸糞の悪くなる爺(ジジイ)だ。

　パソコンに向かう人物は、吐き気を催して口元に手を当てた。
　老人の足元で平伏しているのは、いつも金を借りに来る茶髪の男だ。
　やがて茶髪の男は悪態を吐き、悔し紛れか傍らのソファを蹴りつけて部屋を後にした。
　金を引き出すつもりが、以前からの借金の返済を迫られたものと思われる。

　パソコンに向かっていたその人物は、すぐさま玄関へと移動した。音もなく、影のように。

　「お困りですか？」

　驚愕する茶髪の男に向かって口を開く。

　「金が欲しいのなら、良い方法がありますよ」