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影彦は目を丸くし、一拍置いて哄笑した。
「君、見てたのか」
そう言った後も、影彦は腹を捩って笑い続ける。
つぐみは、首が裂けたテツを見た時よりも激しい吐き気に襲われた。胸の詰まりが喉までせり上がってくる。
「あれは雪彦だよ」
「嘘よ!!」
つぐみは金切り声を上げた。
雪彦が死んでいたとなれば、復讐は完成しない。何のために今まで──。
「落ち着いて」
影彦はつぐみの手を取ると、その手をテツの首に当てる。
ビチャっと音がした。テツの首から流れ出た血液。固まりかけていたそれは、つぐみの目の前で糸を引いた。つぐみの瞳から光が消える。
「こういうことだよ、一香」
影彦は愉快そうに笑いながら、血の付いた手を自分の頬に擦りつけた。
赤黒いもので汚れた頬──。
つぐみは、もはや人のものとは思えない声で呻き続けた。
「君にも同じものが付いてるじゃないか。
後ろを見てご覧よ」
テツの喉が裂かれた時、頬に流れてきた生温かい血──。
影彦は、愛おしそうに握った手に指を絡ませる。
命令に忠実な機械仕掛けの人形のように、回れ右した。
ドレッサーの鏡に、もう一人の自分が映っている。
水浜一香は目を瞠った。
〈了〉
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