葵と湊

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葵と湊

 学生時代から仲の良かった彼。気がつけばいつも彼の隣にいて、彼も私の元に来ることが多かった。話が合って、一緒にいて心地よかった。ただ、それだけだと思ってた。特にこれといった感情もなく、ただ、仲のいい友達だと思ってたんだ。今まで。 ────こんな気持ちになるなら、気づきたくなかった。貴方への気持ちなんて。  彼と仲良くなったきっかけは家が隣っていうのと、母親同士の仲が良くて私たちが物心着く前から、それぞれの家によくお邪魔していて、母親が話している間、一緒に遊んでたことから。  物心着いてからも、幼稚園から高校まで一緒の場所に通った。クラスはさすがに違くなることが多かったけど、違うクラスだった場合は休み時間になる度、彼は私のクラスにやって来る。もちろん家が隣だから登下校も一緒だった。放課後、 私たちが過ごすのは、その日の気分によって私の部屋か彼の部屋か変わった。  一緒にいても話すわけでも、特に何をする訳でもない。ただ隣にいるだけ。話すことがあったら、少し話して、後の時間は携帯を弄ったり、雑誌を読んだり、勉強したり、それぞれの時間を過ごしてる。そんなこと自分の家でやればいいと言う人もいるかもしれないが、小さい頃からの習慣というか、そうするのが当たり前で、そうしないと違和感を感じるほど身に染みてしまった習慣のようなものだった。  彼は私以外の人とはあまり話そうとしなかった。他の人との関わりを最低限にしかしていなかったと言った方がいいのか。だから、学校でも他の人と話している彼を見た事はなかった。かと言ってクラスで浮いている訳でもないようなので、私は特に気にしていなかった。もちろん私にも、友人と言える友人はいなかった。私はプライベートで遊ぶ人もいないし、教室にいる間しかクラスメイトと話さない。グループ活動などのいざという時に1人にならなければいいと思っていたからだ。  なのに、何時からだろうか。私たちが一緒にいる時間が減ったのは。  それはいつものように過ごしていたある日のこと、突然彼が言い出したことだった。 「俺、バイト始める」  急なことで、頭が真っ白になった。詳しく聞けば、欲しいものがあったし、友人に誘われだから丁度いいと思ったらしい。私は彼の発言にも驚いたが、彼に友人がいたことに驚いた。普段ずっと私といるから、一緒にバイトをするくらい仲のいい友人がいるなんて思わなかったから。彼に友人ができて嬉しい限りだが、何故か私はモヤモヤしていた。  その時は特にこれといって何も返せず、私は「うん」と言ってその話は終わってしまった。  私たちはどれだけ一緒にいても、結局違う道を歩いているんだということを突きつけられた気がした。  彼は本当にバイトを始めたのか、放課後や休日、少しづつ一緒に減る時間は減っていった。私は彼と同じようにバイトを始める気にもなれず、ただひたすら自分の部屋で時間を潰した。本来はこれが当たり前なのだろうが、一人でいることがこんなにも退屈なのだと、私はその時初めて知った。同じ部屋なのに二人から一人になっただけで、まるで違う部屋のようだった。  高校を卒業し、大学に入学が決定してから彼が違う大学に入ったことを知った。彼から何も聞いてなかった私は、家から近い大学だからと、彼もここに入学するものだと、勝手に決めつけていた。違う大学に入ったことを聞いたのは、彼本人からだった。大学の入学式の前日、翌日の準備を終わらせ、お風呂から出て携帯を見ると、長らく使用していなかった彼とのメッセージアプリのトークルームにメッセージが届いていた。 『明日入学式だって聞いた。今更かもしれないけど入学おめでとう』 『俺は都内の大学に入学した。今まで言えなくてごめん』 『いい加減、俺らは離れないといけないと思ったんだ』 『一緒にいることが当たり前になってて、それが普通だって。だけど違った』 『バイトを始めて、葵と離れて気づいた』 『俺、葵の存在自体に依存してた。隣に葵がいて当たり前、いないと不思議と落ち着かなくて』 『ふと思ったんだ。どっちかが変わらないといつまで経ってもこのままだって』 『だから、俺は葵の隣から離れることにした。勝手に決めて悪いと思ってる』 『でも、葵には普通に幸せになってほしいから』 『今でも葵のことを探してる俺がいる。けど、少しづつ離れてるこの状態に慣れていって、これが当たり前に戻れる時が来るはずだから』 『もし、この状況に慣れることが出来たら、また会おう。普通の幼なじみとして』  何回にも分けて送られてきているメッセージを読みながら、私は涙を流していた。彼が離れていったことに対してじゃなく、私が彼に向けていた気持ちに気づいてしまったから。  メッセージの横に数字が表記されたことにより、私がメッセージを見た事に気づいたのか、彼の気持ちはわからないが、『葵』と送られてきて、それに続いて送られてきた言葉に私は、さらに涙を流すことになった。 『好きだったよ、ごめん』 Fin
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