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双子の妖《壱》
深い森に二匹の妖が住んでいたんだ。椛を母とし産まれた、枝のような角を持つ妖。彼等は双子でね。いつでも一緒にいた。
名を、金華と銀華。濡れ羽色の髪に赤い着物を着た少年と、銀雪の髪に青い着物の少年だ。
──お星さまが瞬く。毎日、一番最初に光る金の星。
日が沈み、目が覚めると、銀華はいつも、ぼうっとそれを眺める。だから、金華が一番はじめにすることは、月明かりに照らされた彼を、迎えに行くことだった。
「銀華」
くるり、と振り向いた銀華が、ふんわりと微笑む。
「金華、おはよう」
それは、彼等の日課。いつも必ず、銀華の方がはやく目を覚ます。
「母上さまおはようございます」
「ございます」
さわさわと枝が揺れ、心地いい風が彼等を包む。
泉で喉を潤して、星明かりに見守られ、彼等は森を舞い踊る。
今日は、他の妖達がざわめいている。
一年に一度、人のお祭りにこっそり混ざる妖達が、村に降りる準備をするのだ。金華は瞳をきらめかせ、銀華に向かってにっと笑った。
「行ってみようか?」
「うん、いってみよう」
今まで、彼等が人里に降りたことはない。母上や他の妖達が、まだはやいと諌めるからだ。双子は気づかれないように、そうっと森を抜け出した。
お祭りの日は仮装の日。誰も彼等の角を訝しまない。森のぬしさまのお面をつけて、連なる提灯と祭囃子に誘われ、ふたりはくるくると光を巡る。獅子舞に噛みつかれて銀華が泣いた。
「まったく、普段もっとおっかないもの見てるだろうに」
「だってぇ」
獅子舞に噛み付かれた時、びっくりしてしまったのだ。まわりの村人達は微笑ましそうに笑うばかりで、金華はよしよしと頭をなでる。
「もう帰る……」
「そんなこといわずに。ほら、次はあっちに行ってみようか?」
知らない匂いのする方角を指し示す。手を繋いで歩き出すと、不意に銀華が足を止めた。食い入るようにみつめるのは飴玉だ。
「欲しいの?」
こくこく。
「らっしゃい! どれにするね?」
屋台の親父は人のいい笑みを浮かべる。
金華は申し訳なさそうに謝る。
「ごめんなさい。僕達、お金持っていなくて」
「ありゃ。お祭りの日に? 親御さんは?」
「すぐにどきますから」
銀華を引っ張る。
「あはは。いいよいいよ。弟さん、てこでも動かないってツラしてるからな。売ってはやれないけど、好きなだけ見てきな」
きらきら。きらきら。きんいろ飴玉。
提灯に照らされたそれは、人の流れで光源が揺れる度、きらきらと瞬いた。
結局、銀華はお祭りが終わるまで動かなかった。
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