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作戦会議は手短に、ジーノとロイは同時に動き出す。
戸惑うように伺っていた黒竜は、小柄な影が向かってくるのをみて、首をもたげた。
「させるかよぉっ!」
側頭部に打ち込まれる散弾。黒竜は、脅威の優先順位をつけた。近づくのは危ない。高く飛翔すれば、こちらも獲物を仕留められない。
──喰らってしまおう。
とても不味そうだけど
黒竜が、標的を定める。殺意をもって飛翔する。
その背に、小柄な影を乗せて。
ジーノは黒竜にしがみつき、その時を待つ。風圧が頬の肉を削る。
高く高く、舞い上がる。
黒く渦を巻く竜巻の上、中心にアインが居るのが見えた。ジーノは手を離すと、目標に向かって落下していく。
速度を殺すものは、何も無い。アインにぶつからなければ、それでいい。この身体の頑丈さは、わからないけど。
ふわり、浮遊感。落下速度が遅くなる。
「アイン……?」
体勢を整える。彼女は意識を失っているようだった。
彼女は『泣いて』いた。この水を流すことを、彼女はそう言っていた。
どうすれば君は目覚める?
ジーノは彼女の頬に触れる。
細い肩。重責を背負い、孤独に怯え、この世界を作り出した神様。それは、ジーノが想像していた存在と真逆だった。
軋む。
ジーノは彼女の背中に手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめる。冷え切った彼女の身体に、温もりをわける。
糸車は廻る。流れ込む幻想。
氷の檻のその向こう、少女は誰も居ない椅子にもたれ掛かる。ジーノがゆっくりと歩み寄ると、少女はゆるゆると顔を上げた。
──どうして?
その瞳が問うている。
「いつか困った時、助けるって言っただろう?」
竜巻が解ける。
ジーノとアインは、巻き上げられるように上空に放り出された。
彼女の碧い瞳が星を宿し、二人は煌めく風を纏う。
「私、あの子の止め方がわからない」
ジーノはこくり、と頷く。刀を抜いた。
「俺が止める」
泣きそうにアインが笑った。ジーノの右手に両手を添える。
「奏でよ。幻想 肉を編め……!」
緑色の淡い光が、右手ごと刀を包む。
周囲を漂う、煌めく風が収束する。
彼の右手が刀と溶け合い、再構成される。
幻想が奏でられ、それは確かな質感を持って顕現する。
緑の風を纏う両刃剣。刀身は内から輝きを放つ。星のように優しい光。柄からはゆらゆらと揺れる長い布。
黒竜が、頭上を見上げる。
寄り添う二人は、静かにその剣を振り降ろす。
さっくりと、砂糖菓子の化け物は切り裂かれた。
幻奏機械の手によって。
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