5話 幻奏機械

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 作戦会議は手短に、ジーノとロイは同時に動き出す。  戸惑うように伺っていた黒竜は、小柄な影が向かってくるのをみて、首をもたげた。 「させるかよぉっ!」  側頭部に打ち込まれる散弾。黒竜は、脅威の優先順位をつけた。近づくのは危ない。高く飛翔すれば、こちらも獲物を仕留められない。  ──喰らってしまおう。  とても不味そうだけど  黒竜が、標的を定める。殺意をもって飛翔する。  その背に、小柄な影を乗せて。  ジーノは黒竜にしがみつき、その時を待つ。風圧が頬の肉を削る。  高く高く、舞い上がる。  黒く渦を巻く竜巻の上、中心にアインが居るのが見えた。ジーノは手を離すと、目標に向かって落下していく。  速度を殺すものは、何も無い。アインにぶつからなければ、それでいい。この身体の頑丈さは、わからないけど。  ふわり、浮遊感。落下速度が遅くなる。 「アイン……?」  体勢を整える。彼女は意識を失っているようだった。  彼女は『泣いて』いた。この水を流すことを、彼女はそう言っていた。  どうすれば君は目覚める?  ジーノは彼女の頬に触れる。  細い肩。重責を背負い、孤独に怯え、この世界を作り出した神様。それは、ジーノが想像していた存在と真逆だった。  軋む。  ジーノは彼女の背中に手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめる。冷え切った彼女の身体に、温もりをわける。  糸車は廻る。流れ込む幻想。  氷の檻のその向こう、少女は誰も居ない椅子にもたれ掛かる。ジーノがゆっくりと歩み寄ると、少女はゆるゆると顔を上げた。  ──どうして?  その瞳が問うている。 「いつか困った時、助けるって言っただろう?」  竜巻が解ける。  ジーノとアインは、巻き上げられるように上空に放り出された。  彼女の碧い瞳が星を宿し、二人は煌めく風を纏う。 「私、あの子の止め方がわからない」  ジーノはこくり、と頷く。刀を抜いた。 「俺が止める」  泣きそうにアインが笑った。ジーノの右手に両手を添える。 「奏でよ。幻想 肉を編め……!」  緑色の淡い光が、右手ごと刀を包む。  周囲を漂う、煌めく風が収束する。  彼の右手が刀と溶け合い、再構成される。  幻想が奏でられ、それは確かな質感を持って顕現する。  緑の風を纏う両刃剣。刀身は内から輝きを放つ。星のように優しい光。柄からはゆらゆらと揺れる長い布。  黒竜が、頭上を見上げる。  寄り添う二人は、静かにその剣を振り降ろす。  さっくりと、砂糖菓子の化け物は切り裂かれた。  幻奏機械(ジーノ)の手によって。
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