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3話 微睡みの中で
その街は、霧に包まれていた。
コロコロと車輪を転がし、空を見上げる。
厚い雲に覆われた空は、いつも灰色で、本当の色を彼は知らない。じっと、動かなくなった彼は、思索する。
学んだカリキュラムには、空は青いとあった。
誰が、それを見たのだろう? 何故、灰色の空の事ではなく、見たことの無いそれを、空の色と記したのだろう?
いつも、自由行動が終わるまで、様々なことを考える。
──いつもと違ったのは
『何してるんだ?』
ひょいと覗き込むように、彼の視界を奪った存在。
その気まぐれが、彼の進む道を大きく変えた。ただ、その時は酷く驚いて、全速力で逃げ出したのだけど。
だからこれは、数日後。
『だから、悪かったってー』
あれから毎日、それは訪ねてきた。
思索の邪魔になる。とても邪魔。返事をするまで帰らないそれを、彼は一方的によく知っていた。
雛形達の間では有名だ。
アルカナシリーズに搭載されることが決まっている、将来有望な雛形。
特別なカリキュラムを受けている、エリート。
だから、出来損ないの自分と関わるべきではないのに、それは毎日話しかけてくる。
それが悪いわけではないのだ。ただ悪影響を与えてしまったら、数ヶ月後に廃棄の決まった自分は、バグを抱えている。今日も、適当に返事をして、すぐ逃げよう。彼は、意を決して言葉を──
『あ! そうだ知ってるか?』
出鼻をくじくように、それは言った。
『なに……?』
知ること、知らないことがあること。彼が興味を示した。嬉しそうに、それは続ける。
『コールドスリープ区画に、お化けが出るんだって!』
落胆。車輪をころころ転がして、次のカリキュラムは歴史だったな、と彼は思い出す。準備をそろそろしなければ。
『ちょっとまて──』
回り込むように通せんぼ。なんだか今日は、酷く強引だ。焦ってる? 何に? 埒もない疑問は、虚空に追いやる。
『信じてないな!?』
『うん』
それは、衝撃を受けたようだった。むしろ、何処に信じる要素があるのだろうか? その柔らかさがあったら、廃棄されずに済んだのかもしれない……
少し沈んだ彼をどう思ったのか、それはバンバンと彼の側面を叩くと、よし! と気合いを入れた。
──?
『確かめに行こう!』
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