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『来たな』
深夜二時、指定された場所で、それはふふんと勝ち誇った。くるり、と反転する。
『まてまてまて──帰ろうとするな!』
ため息をつく機能が欲しい。彼は観念すると質問した。
『キミは、どうやって外に出るつもりなの?』
『ん? 申請して許可とった』
『……………おりたの?』
『おう!』
絶句。どんな手品を使ったのだ? それともそれが、アルカナシリーズへの特権なのか?
あまりにも正攻法すぎる手段に、混乱する彼を導くように、それはからからと進み出した。
夜の街は、蠱惑的だった。
普段、賑やかな通りには誰もいない。しんとした空気に、深い霧。無人の露店は、昼間の残響。
時折、ガス灯に浮かぶ巡回機を避け、それと彼は歩みを進める。
誰も、彼らを管理するものは、いない。このまま、消えてしまいたいな、と彼は思った。
──やがて、その区画は現れる。
それが鼻歌混じりにパスを入力すると、重い扉がするすると開いた。
じとっと見つめた彼に、器用に肩をすくめてみせると、サーチライトを点灯させる。
『赤外線でよくない?』
『雰囲気雰囲気』
よくわからない拘りだ。
からから。ころころ。
車輪の音だけが、木霊する。
『いないね』
当たり前だけど、と冷めた気持ちで付け足してふと気付いた。
足取りに、迷いが無さすぎないか? 目的地がある……?
『ねぇ』
呼びかけようとして、困った。それをなんと呼べばいい?
『ん?』
それが振り向く。彼に答えるためではない。
辺りを見回しら手近なコンソロールに駆け寄る。いくつかの手順で必要な情報を得たのか、それの纏う雰囲気が険しくなった。
………
何となく察する。それは何度も、ここに来ている。
彼が誘われたのは、気まぐれかもしれない。でも、それは明らかに役目を負っている。そして今、異常がある。
『待ってた方がいい? ついて行った方がいい?』
彼の申し出に、それは驚いたようだった。
ごめんな、と呟く。ふるふると、彼は頭部を横に振って、指示を待つ。
『侵入者の形跡がある。数は多くない。真っ直ぐに中心部に向かってる』
情報を開示された。
『本当はもっと、簡単なやつのつもりだったんだけどな』
──それは、チャンスをくれたのだ。廃棄ではない道。彼が生きる、未来への切符。
だから、それに応えよう。彼は思索する。それが、彼の唯一の武器だ。
『中心部には、なにがある?』
『そりゃ』
眠っている彼らの神様。人間達。
『ああ、そうだ』
思い出したように、それは言った。
『俺は──』
型式番号R01-XX
後に彼はそれをロイクス──ロイと呼ぶ。
友達になるのは、まだ先の話。
彼にまだ、名前がなかった頃。
はじめて存在意義を見出してくれたのは、ロイだった。
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