3話 微睡みの中で

3/5
前へ
/28ページ
次へ
『来たな』  深夜二時、指定された場所で、それはふふんと勝ち誇った。くるり、と反転する。 『まてまてまて──帰ろうとするな!』  ため息をつく機能が欲しい。彼は観念すると質問した。 『キミは、どうやって外に出るつもりなの?』 『ん? 申請して許可とった』 『……………おりたの?』 『おう!』  絶句。どんな手品を使ったのだ? それともそれが、アルカナシリーズへの特権なのか?  あまりにも正攻法すぎる手段に、混乱する彼を導くように、それはからからと進み出した。  夜の街は、蠱惑的だった。  普段、賑やかな通りには誰もいない。しんとした空気に、深い霧。無人の露店は、昼間の残響。  時折、ガス灯に浮かぶ巡回機(パトロール)を避け、それと彼は歩みを進める。  誰も、彼らを管理するものは、いない。このまま、消えてしまいたいな、と彼は思った。  ──やがて、その区画は現れる。  それが鼻歌混じりにパスを入力すると、重い扉がするすると開いた。  じとっと見つめた彼に、器用に肩をすくめてみせると、サーチライトを点灯させる。 『赤外線でよくない?』 『雰囲気雰囲気』  よくわからない拘りだ。  からから。ころころ。  車輪の音だけが、木霊する。 『いないね』  当たり前だけど、と冷めた気持ちで付け足してふと気付いた。  足取りに、迷いが無さすぎないか? 目的地がある……? 『ねぇ』  呼びかけようとして、困った。それをなんと呼べばいい? 『ん?』  それが振り向く。彼に答えるためではない。  辺りを見回しら手近なコンソロールに駆け寄る。いくつかの手順で必要な情報を得たのか、それの纏う雰囲気が険しくなった。  ………  何となく察する。それは何度も、ここに来ている。  彼が誘われたのは、気まぐれかもしれない。でも、それは明らかに役目を負っている。そして今、異常がある。 『待ってた方がいい? ついて行った方がいい?』  彼の申し出に、それは驚いたようだった。  ごめんな、と呟く。ふるふると、彼は頭部を横に振って、指示を待つ。 『侵入者の形跡がある。数は多くない。真っ直ぐに中心部に向かってる』  情報を開示された。 『本当はもっと、簡単なやつのつもりだったんだけどな』  ──それは、チャンスをくれたのだ。廃棄ではない道。彼が生きる、未来への切符。  だから、それに応えよう。彼は思索する。それが、彼の唯一の武器だ。 『中心部には、なにがある?』 『そりゃ』  眠っている彼らの神様。人間達。 『ああ、そうだ』  思い出したように、それは言った。 『俺は──』  型式番号R01-XX  後に彼はそれをロイクス──ロイと呼ぶ。  友達になるのは、まだ先の話。  彼にまだ、名前がなかった頃。  はじめて存在意義を見出してくれたのは、ロイだった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加