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夢を見ていた。懐かしい夢。ジーノは微睡みから覚醒する。ぼんやりとした輪郭を残し、夢は霧散した。少し苦い感覚。
──眠っていたのか?
家に戻って御飯を食べた。アインはとても不安そうだったが、あのロボットに敵意はなかったこと、自分がついていることを、一所懸命伝えた。
扉の前で見張りをしていたのだが、疲れていたのかもしれない。時計を見やると午後二時をまわっていた。
控えめにノックをしてみる。
返事はない。
少し不安になる。そっと、ドアノブに手をかけた。
「アイン、入るぞ」
絵本に童話、数学書、哲学書etc.
その部屋は、本で溢れていた。
天井には、彼の知らない星座の模様。
ふわふわしたクッションと、多種多様なぬいぐるみ。
子供部屋? 普段は使っていない部屋のようだ。
アインはここがいいと言ったが、昔使っていた部屋なのだろうか?
そして──部屋の中心。
アインは、健やかな寝息をたて、クッションを抱きしめながら、大きな椅子にもたれかかっていた。
(水の跡だ……)
ジーノは音を立てないように歩み寄ると、アインの頬に触れる。
それの止め方を、ジーノは知らなかった。
あの時の感覚が、今も残っている。
アインの唇が、僅かに動く。
『おばあちゃん』と
アインがしてくれたことは、彼女がいつも、それを止めるためのもの、だったのだろうか。
しょこらて…
どうやって、作るのだろう
煩悶していると、アインの瞼が震えた。ゆっくりと目を開く。
「起きたか?」
「ふぇ…?」
硬直した彼女の頬の水を拭うと、ジーノは一歩下がった。どうしたのだろう? 顔を白黒させて、手で覆う。
「涙……? 私泣いてた……?」
はっとしたように、こちらに訊ねるアイン。
水が止まらなくなることだろうか? ジーノは頷いた。
「違うのよ? 怖かったからとかじゃなくて、泣くつもりなくて、ちょっと夢見ちゃったから」
「夢?」
ばたばたと手を上下させる彼女に、相槌を打つ。
「うん、大事なお話のお話」
赤面して呻いて、アインは最後に項垂れた。
本の表紙を、白くて細い指で、するりと撫でる。
「なぁ」
「?」
「どうやって作るんだ? しょこらて」
ぱちくり、瞬き一つで花が咲く。彼女の表情は、くるくる変わる。
その顔の方が、ずっといい。ジーノはそう思った。
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