3話 微睡みの中で

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 夢を見ていた。懐かしい夢。ジーノは微睡みから覚醒する。ぼんやりとした輪郭を残し、夢は霧散した。少し苦い感覚。  ──眠っていたのか?  家に戻って御飯を食べた。アインはとても不安そうだったが、あのロボットに敵意はなかったこと、自分がついていることを、一所懸命伝えた。  扉の前で見張りをしていたのだが、疲れていたのかもしれない。時計を見やると午後二時をまわっていた。  控えめにノックをしてみる。  返事はない。  少し不安になる。そっと、ドアノブに手をかけた。 「アイン、入るぞ」  絵本に童話、数学書、哲学書etc.  その部屋は、本で溢れていた。  天井には、彼の知らない星座の模様。  ふわふわしたクッションと、多種多様なぬいぐるみ。  子供部屋? 普段は使っていない部屋のようだ。  アインはここがいいと言ったが、昔使っていた部屋なのだろうか?  そして──部屋の中心。  アインは、健やかな寝息をたて、クッションを抱きしめながら、大きな椅子にもたれかかっていた。 (水の跡だ……)  ジーノは音を立てないように歩み寄ると、アインの頬に触れる。  それの止め方を、ジーノは知らなかった。  あの時の感覚が、今も残っている。  アインの唇が、僅かに動く。 『おばあちゃん』と  アインがしてくれたことは、彼女がいつも、それを止めるためのもの、だったのだろうか。  しょこらて…  どうやって、作るのだろう  煩悶していると、アインの瞼が震えた。ゆっくりと目を開く。 「起きたか?」 「ふぇ…?」  硬直した彼女の頬の水を拭うと、ジーノは一歩下がった。どうしたのだろう? 顔を白黒させて、手で覆う。 「涙……? 私泣いてた……?」  はっとしたように、こちらに訊ねるアイン。  水が止まらなくなることだろうか? ジーノは頷いた。 「違うのよ? 怖かったからとかじゃなくて、泣くつもりなくて、ちょっと夢見ちゃったから」 「夢?」  ばたばたと手を上下させる彼女に、相槌を打つ。 「うん、大事なお話のお話」  赤面して呻いて、アインは最後に項垂(うなだ)れた。  本の表紙を、白くて細い指で、するりと撫でる。 「なぁ」 「?」 「どうやって作るんだ? しょこらて」  ぱちくり、瞬き一つで花が咲く。彼女の表情は、くるくる変わる。  その顔の方が、ずっといい。ジーノはそう思った。
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