軋む炉(こころ)の幻奏機械

1話 彼と彼女のプロローグ

　アイン・フィリーラ・ファルンテイルの朝は早い。彼女は夜明け前に目を覚ます。ふわふわのベッドの中、彼女は大きく伸びをした。
　お気に入りの青いエプロンドレスに着替えると、顔を洗うための水を汲みに、家の中庭にある井戸に向かう。滑車がからから転がって、欠伸をひとつ。はっと気づいて、キョロキョロとあたりを見て、赤面する。
　水を汲むのは大変だ。うんしょうんしょと引っ張って、少しの水を確保する、これを往復三回。
　ぱしゃぱしゃ顔を洗って、櫛で灰色がかった黒髪を梳かして、さてパン屋さんがあくまでなにをしようか？　と考える。
　今日も平凡な一日。何も無い穏やかな日々。それがずっと続くと疑ってなかった。
　ぱあっ……と東の空が明るくなった。
　マジックアワーの空に、オレンジの光が一筋。
「星のカケラがふってきたのかな？　かな？」
　今日は、メテオライトを探しに行くのもいいかもしれない。そうして彼女は東の丘に向かう。星降りの丘。彼女はそう名付けた。
　そこで彼女は彼を見つけた。