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2話 水と鏡と約束と
──待っててね!
アインはそう言うと、この部屋を飛び出していった。一人残され、ジーノはぼんやりと扉を眺める。
痛む胸に手をやり、呻く。水は止まらない。
ばんっ!
扉が勢いよく開いた。アインがバスケットを小脇に抱え、ぱたぱたと駆け寄ってくる。
生命力の塊のような少女。
バスケットから大事そうに、幾つかの物をサイドテーブルに移す。はい、とカップを差し出した。
「これは?」
「ショコラテ。飲んでみて」
目がキラキラしている。しょこらて、と口の中で小さく呟いて、ジーノは不安げにアインを見つめ返した。
──これは、どうすればいいのだろう?
アインはもう一つカップを取り出すと、ふーっと息を吹きかけて一口飲む。見よう見まねでジーノも恐る恐る口をつけた。
ふわり、甘い匂いが広がる。熱い液体はとろりとして、まろやかでジーノはとても驚いた。
「美味しい?」
「多分」
「ふふっ。多分なんだ?」
だって、こんな飲み物をジーノは知らない。
もう一口。
「うん、これが美味しいてことなんだと思う」
噛み締めるように、ジーノは呟く。
アインは、サイドテーブルに置いた器から、アイスボックスクッキーと、バニラアイスを差し出す。
おずおずと受け取ったジーノは、先程と同じように、アインの仕草をみて咀嚼する。
アインが笑った。ほっとしたように。
ジーノはふと、水が止まっていることに気づいた。
──眩しい、そう思った。
アインは、ジーノの事をそれ以上聞かなかった。
ただ、星振りの丘で、見つけた彼を拾ったこと。
ずっと眠っていた彼を介抱したのが、彼女であることを教えてくれた。
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