2話 水と鏡と約束と

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 二人並んで歩く。 「それでね、オーガスさんちのバゲットは、とっても美味しくて!」  アインは、どこかうきうきしながら、ジーノに話し続ける。どこそこで子猫が産まれた。綺麗な花を見かけた。タルトの美味しいお店が出来た。  ジーノは相槌を打ちながら、街の様子を見る。  この辺りは露天が多い。活気がある。  皆笑顔だ。平和な街なのだろう。  アインが通ると微笑み、二言、三言話しかける。  ──? 「知り合いが多いんだな」  何気なくそう呟いたジーノ。だが、 「……うん」  どこか(こら)えるように、アインは(うつむ)いた。  なにか不味いことを言ってしまっただろうか? ジーノは内心狼狽(うろた)えた。  彼女が顔を上げる。透き通った(あお)い瞳が、真っ直ぐ見つめる。 「皆、大切だよ」  堅い(つぼみ)がほころぶような、誰もがつられて微笑むような、そんな笑顔。 「……。」  ジーノの表情が、困惑に変わる。  この笑顔は本当だ。でも先程の彼女の一瞬の苦痛を、見なかったことにしてはいけない。そんな気がする。たとえそれが賢くても、望まれていても……  友ならこんな時、どうしただろうか……  目線を地面を落として、ジーノは考える。  影法師が、長く伸びていた。  ? 今太陽は中天にある。  違う、これは自分たちの影ではない!  屋根の上。もっと高い所。なにかが自分たちに向かって落ちてくる。ジーノは危機感を覚えて、アインを()(かか)えるとその場から跳躍する。  一瞬遅れて、重い物が着地する音が響き渡った。  広場が騒然(そうぜん)とする。  アインを背後に庇って、ジーノはそれを直視した。  駆動音をあげる、六本脚の箱型機械。  正面にあるモノアイが、探るようにこちらを凝視する。  それは、御伽噺に出てくるようなこの街に、とても不釣り合いだった。  ──ボクス型機械兵の子機! なんでこんな所に……!  キュイイイ…  友好音だ。とにかく返さなくては…… 「……あれ?」  どうやって?  モノアイが動き、アインを見つめる。  背後で、アインが怯える気配がする。 「待ってくれ! 敵じゃない──」  その言葉に戸惑うように見えたそれは、ジーノに向かって前進を開始する。  前足の一本が、ゆっくりと振り上げられる。  ──そのまま、それはゆっくりと倒れ、停止した。  ずきり、と音を立てて、なにかが軋んだ。
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