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二人並んで歩く。
「それでね、オーガスさんちのバゲットは、とっても美味しくて!」
アインは、どこかうきうきしながら、ジーノに話し続ける。どこそこで子猫が産まれた。綺麗な花を見かけた。タルトの美味しいお店が出来た。
ジーノは相槌を打ちながら、街の様子を見る。
この辺りは露天が多い。活気がある。
皆笑顔だ。平和な街なのだろう。
アインが通ると微笑み、二言、三言話しかける。
──?
「知り合いが多いんだな」
何気なくそう呟いたジーノ。だが、
「……うん」
どこか堪えるように、アインは俯いた。
なにか不味いことを言ってしまっただろうか? ジーノは内心狼狽えた。
彼女が顔を上げる。透き通った碧い瞳が、真っ直ぐ見つめる。
「皆、大切だよ」
堅い蕾がほころぶような、誰もがつられて微笑むような、そんな笑顔。
「……。」
ジーノの表情が、困惑に変わる。
この笑顔は本当だ。でも先程の彼女の一瞬の苦痛を、見なかったことにしてはいけない。そんな気がする。たとえそれが賢くても、望まれていても……
友ならこんな時、どうしただろうか……
目線を地面を落として、ジーノは考える。
影法師が、長く伸びていた。
? 今太陽は中天にある。
違う、これは自分たちの影ではない!
屋根の上。もっと高い所。なにかが自分たちに向かって落ちてくる。ジーノは危機感を覚えて、アインを抱き抱えるとその場から跳躍する。
一瞬遅れて、重い物が着地する音が響き渡った。
広場が騒然とする。
アインを背後に庇って、ジーノはそれを直視した。
駆動音をあげる、六本脚の箱型機械。
正面にあるモノアイが、探るようにこちらを凝視する。
それは、御伽噺に出てくるようなこの街に、とても不釣り合いだった。
──ボクス型機械兵の子機! なんでこんな所に……!
キュイイイ…
友好音だ。とにかく返さなくては……
「……あれ?」
どうやって?
モノアイが動き、アインを見つめる。
背後で、アインが怯える気配がする。
「待ってくれ! 敵じゃない──」
その言葉に戸惑うように見えたそれは、ジーノに向かって前進を開始する。
前足の一本が、ゆっくりと振り上げられる。
──そのまま、それはゆっくりと倒れ、停止した。
ずきり、と音を立てて、なにかが軋んだ。
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