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ep.1
運命なんて信じたくはないけれど──目の前で証明されてしまってはどうしようもない。
花瀬慧はもう二度と連絡することもないであろう人のメモリを携帯から削除して、窓の外のどこに視点を合わせるわけでもなく静かに深いため息をついた。
うなだれた腕の中で携帯が震え、花瀬は再び画面を覗いて相手を確認してから着信に応答する。
「もしもし?」
「──花瀬? 生きてるか?」
電話の相手は大学時代から社会人になった今でも仲の良い奥秋だった。
悲しいかなその奥秋こそが自分にあの人を引き合わせた張本人だったりもする──。
「そこまでやわではないよ、産まれたの?」
「──うん、今朝。男の子だって」
「そうか。男の子か……あの子の子どもならきっと可愛いだろうな──って、写真は送らないでよ」
「そこまで俺は鬼じゃねぇよ、この電話だって一応最後まで悩んだんだぞ」
「そうだな、お前はそういう奴だ」
──いつだって自分は二の次、誰かに優しくするばかりでお前はいつ幸せになる?
「奥秋。人のことは言えないけど、いつまでも貧乏くじばかり引くのはやめろよ。お前はもっと自己中心的に生きてもいいと思うぞ」
「言ってる意味がわからない……」
自分のことに関してひどく鈍感な親友に花瀬は再びため息をついた。
「自覚がないのは重症だけど、まあいいよ。今晩飲みに行こうか、ひとり者同士で」
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