AP学部

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    「才能?」         「そうだよ。一度でも死んでしまうとこれからの   人生は激変してしまう。それに適応できるかどうか  で才能の有無が分かる」   面接官はジトっとした目で憲治を観察する。  憲治も嫌な雰囲気を感じたが目を背けること  なく対峙する。  「それなら、僕に才能があるかないかはやって  みないと分からないってことですよね」            「だから同意書を書いてもらったんだ。試験の後  何が起こっても我々に責任はないという書類にね」           面接官は念を押した。冷酷な眼差しを憲治  にぶつける。これが分水嶺……彼がどう自分の     身を処するかでその後の運命は決まる。  「構いません。そのために来たんですから」           「よろしい……ついてきなさい」              面接官に連れられて憲治は部屋を出た。         「これよりアストラル投射(Astral Projection)     適応試験を開始する。試験番号17、対象は橋田憲治。     男性、2066年12月2日生まれ。健康状態は極めて     良し」          面接官は高らかと宣言した。彼のすぐ横にはリクライニング   式の椅子に横たわる憲治の姿があった。耳の後ろには粘着   パットが付けられ、左肘の内側には針が突き刺さっている。    憲治は首筋に汗をかいていて動機も激しい。   面接官は彼を落ち着かせようと耳元で囁く。 「緊張しているかい?」 「はい」 「それでいい……正直で自然な反応だ」    面接官はにんまりと笑う。何がおかしいのかと   憲治は問い出したくなる。今から2分近くといえ人   を殺すのだ、よくそんな顔ができると怒りたくなる。 「いいかい、緊張をほぐすコツを教えるよ。今まで   君が生きてきた中でとても大切でかけがえのない   思い出を想像してごらん?」      
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