AP学部

3/6

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
面接官は優しく囁いた。憲治は目をつぶりながら    過去の記憶を辿る。      「何を思っていた?」           「父との記憶です。父や自分を野球選手にしたかった      みたいで僕も小学校の時野球部に入ってました。父が      事故で亡くなるまで……休みの日はよくキャッチ     ボールを してました」           「素敵な思い出だね。ならそのことをずっと考えて      おくんだ。きっとお父さんが連れ戻してくれるよ」           面接官は指をパチンと鳴らした。それと同時に      薬品が針を通して憲治の中に入っていく。憲治の       意識は失われ、間もなく心臓の鼓動も停止した。      「はっ!」            憲治は突然覚醒した。全身を襲う悪寒とキリキリする      心臓の痛みが彼を現世に引き戻した。彼の反応を見た      面接官がそっとブランケットのようなものをかぶせる。     「大丈夫かい」           「み……水を」             呻くような声を出す憲治に面接官はあらかじめ用意     していたかのようにペットボトルを彼の口に当てた。           「僕は一体……」          「君は死んでいたんだよ。きっかり108秒」             面接官は手に持っていたストップウォッチを見せる。   憲治は現実を思い知らされた。   「どんな感じだったかい?」     「暗くて寒くてひたすら沈んでいくような……ただ     怖かった。でも光が差し込んできて……それで」         憲治の唇は震えていた。彼の人生においてこれほど    の恐怖は存在しなかっただろう。臨死体験などしない    に越したことはない。   「分かった。試験はこれで終了だ。精密検査を受けたら    もう帰っていいよ」         面接官は淡々とした口調で言った。心配     などしていない様子が憲治にも伝わった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加