AP学部

5/6

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
       3日後、再び憲治は面接官と最初に会った部屋に     いた。面接官はじっと憲治の眼球を見ている。何か     を察したようでニヤリと笑った。      「何がおかしいんです?」         「君は約束を破ったようだね」            面接官はずばり核心を突いた。憲治は胃がキリキリ     するのを感じた。         「そんなことありません。僕は一切手袋を外していない!」         「ふふふ、ここ2日間眠れなかっただろう?」           「どうしてそれを……」       自分を監視していたのか?と憲治が訝しむ。面接官     の言う事は事実だった。確かに試験の後眠れなかった。     眠ってしまうともう二度と目覚めないのではないかと いう衝動に襲われた。   「君は恐怖から逃げるように思い出の品を素手で触った。    違うかい?」        預言者のように次々と言い当てる面接官に憲治は    驚愕した。   「そうです……」    「何を触った?」    「父の遺した野球グローブ」         憲治は告白した。彼を救ったのは父親の遺産だった。    グローブに触った瞬間、父親との楽しい思い出が   彼の心に入り込んできたのだ。       「それで君は試験の時に自分を救ってくれた光を    もう一度求めた……私との約束を破ってまで」        「は、はい……」          憲治は堪忍したようにすべてを認めた。    「僕は不合格ですか?」          憲治は恐る恐る尋ねた。面接官は彼の目を     今一度凝視する。       「1つ質問だ。君はどうしてずっと泣いていたん    だい?」          面接官は憲治の目が充血している訳を尋ねた。     憲治は戸惑っていたがやがて口を開く。        「もう何も感じないからです……グローブをいくら    触ってもあの光が僕を照らしてくれないからです」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加