AP学部

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           ――AP学部――        「同意書は書いてくれたようだね……えっと橋田憲治      くん」            「はい」               憲治は小さく頷いた。狭い部屋の中に彼はいる。   対面にはスーツ姿の面接官が彼を目踏みするよう   に観察している。           「緊急の連絡先はお母さんだけになっているね」           「はい……それが何か?」             「原則2人の連絡先が必要なんだがブランクになって   いてね」             「父は10年前に死にました。兄弟はいません」             「そうか……それは失礼した」        面接官のズケズケとした質問に憲治は気分を      害されたが悟られないよう冷静を装う。      「これから受ける試験は今まで君が経験したことの      ない未知の領域だ。それは分かっているかね」             「はい」             「本当かい?なんせ今から108秒の間君は死ぬこと      になるんだよ」         面接官は冷ややかに説明する。もう数えきれない      ほど多くの人に伝えた。最初のころは抵抗もあった      が今では機械のように言葉を並べられる。      「当然覚悟してます。だからAP学部の受講を   望んだんです」            「ふふふ、この学部に入ろうとする人間はみんな   そう言うんだ。不思議だよね……蘇生に失敗する   確立はゼロじゃないのに」          面接官は憲治の反応を見る。これで大きく   受講者の反応が分かれる。ここで諦めてくれれば   まだ救いようはあるのだが……      「AP学部を出た人間は政府直轄の機関に入れる   じゃないですか。年収3000万は当たり前って   聞いてます。僕は母子家庭でずっと貧乏でした。   だから大金を稼げる仕事に就きたいんです」         憲治は大声で自己主張をした。ここまで   俗っぽい理由だと面接官も思わず苦笑する。      「なるほどね……君のやる気は十分伝わった。      いいかい?AP学部の門戸は誰にでも開いている。      資格は全人類にあるが、才能はまた別の話だ」
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