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「いい歌だね。僕もなんか好きになっちゃった」
「じゃあ、これもおそろいで得意札にする?」
少しおどけたように充君が言うと、僕は素直に笑って見せた。
きっとこの恋は実らないだろう。そんな諦めにも似た思いが僕にはあった。まだ好意と恋の違いすら分かっていない僕には、告白なんてする勇気はない。なぜ好きなのか、どこに惹かれるのか、言葉で説明できない僕はただ好きだという感情しかないのだ。ただ衝動のままに突っ走って、この帰り道を一人で歩くなんて考えられない。そんなことになるくらいなら、このままでいいと思えるのだ。
長い長い人生の中で、充君のことだけを考える三年間。それはきっと僕の人生の中で、大切な宝物になるはずだ。そう信じながら、今日も僕は充君の隣を歩くのだ。
「いいの? でもおそろいなんて、ちょっと照れるね」
「うん、ちょっと照れるね」
僕の言葉を繰り返すように、充君が言う。しかし照れるなんて言っておきながら、充君は僕の目をしっかりと見つめてくるのだ。そのせいで本当に僕はどぎまぎする羽目になった。さっきクールダウンさせたのに、また顔が赤くなってしまう。もう一度と思ってカルピスを傾けるも、すでに飲み切って空の容器だけになっていた。
「ねぇ、この歌の意味、知ってる?」
充君が一歩近づいたせいで、僕の肩に充君のが触れそうになる。それに心臓が跳ねるも、平静を装って首を横に振った。
「ううん。でも帰ったら調べてみるよ」
「これはね、恋の歌なんだよ」
いつの間にか正面に回ったのか、太陽を背にした充君が僕の視界いっぱいに広がる。かと思えば、充君がずいっと顔を近づけてきた。鼻先が触れ合うかと思うような距離に。あぁ、やっぱり誰か好きな子でもいるのかな。そんなことを考える余裕すらなくて、僕の心臓は破裂するんじゃないかというほどに強く強く鼓動を伝えていた。
「なんでこれを好きになったか、教えてあげようか?」
まるで悪魔のような甘い囁きに、僕はただ小さく頷くしかできなかった。
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