悩乱

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「気付いてたの?」 「うん」 「なんだ、そうだったんだ。早く言ってくれればいいのに」 「ごめんね、意地悪したくなっちゃったんだ」 「もう……」  潤んだ瞳で睨まれても怖くなんてない。むしろ拗ねている顔を見られて幸運だと思うくらいだ。 「今まで隠してきたつもりだったんだけど。そんなに顔に出てた?」 「目は口ほどに物を言う、だったね」 「あはは、全然だめだね」  僕の手に健治君の手が重ねられる。その熱を感じて、僕は手放したくないと強く思った。だからこそ、僕が健治君の心に一歩近づいてみせる。なんで想いを隠してたのかなんて、今はどうでもいい。ただ僕がこの熱を手に入れたい。それだけだった。 「ねぇ、僕は健治君のことが好きだよ。健治君も僕のこと、好きでしょう? だからさ、僕の恋人になってくれないかな?」  スマートさのかけらも無いようなセリフにだが、これは紛れもない本心だった。子供を誑かすような甘さをもって、僕は請い願う。迷っているというよりは混乱しているのか、ぼんやりと心ここにあらずといったように健治君は僕を見つめる。しかし意味を理解したのか、ハッと息を飲んだ。 「本当? これって夢とかじゃない?」 「うん、夢じゃないよ」 「嬉しい……。僕、今だったら死んでもいいかも」  パッと手を離したかと思うと、今度は僕の体に抱き着いてきた。それを支えるために、僕はたたらを踏む。その重みすら嬉しいと思うのは、愛の偉大さだろうか。 「ずっと僕のそばにいてくれないの?」 「じゃあ生きる。長生きする。おじいちゃんになるまで一緒にいる」  明日もまた、きっとこの道を通る。しかし並んだ二人は友達同士ではなく、恋人同士として歩くのだ。想像するだけでなんだか嬉しくて、待ちきれなくて。とりあえず僕は、健治君の体を強く抱きしめ返した。 「君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな」   あなたに逢えたら死んでも惜しくないと思った命ですが、     あなたの愛を勝ち得た今は一刻も長らえたいと願います。
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