隙間道の女の子

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 次の日も、その次の日も、面倒だと思いながらも、どうしてか俺はその少女に会いに行った。  少女は決まってビルとビルの隙間から俺のことを呼んだ。  現れる路地は変わらなかったが、隠れている隙間道は毎回違った。  恐る恐る路地を進んでいく俺の手を、毎度突然掴んできては、さよならの時間までずっと離さずに握りしめていた。  そんなことが数日続いた。  どうしてこんな女の子と一緒に話をしているんだろうと不思議に思っていた。  暑い中水も飲まずに、遊びの時間を削ってまで、何故自分は少女の手を振り払わずにこんな薄暗い中にいるんだろう。  路地に向かう道を行く最中も、少女に会っている間も、ずっと疑問に思い続けた。  だが、結局俺はその女の子のいる隙間道まで行ってしまうのだ。  友達だから。  短いその言葉に、俺はがんじがらめにされていた。  その日も、俺はか細い、囁くような呼び声につられ、あの路地へと向かっていた。  朦朧とするほど、暑い日だったのを覚えている。  その子は酷く顔色が悪く、気味悪く間延びした呼吸を繰り返していた。  その様子は非常に不気味で、掴まれている手首にぞわぞわと鳥肌が立っていくのを感じていた。 「俺、そろそろ帰る」  やっと夕暮れが迫ってきて、安堵の息と共に俺は少女にそう告げた。  いつもなら、その子は少し寂しそうな顔をして、 『明日も遊ぼうね。友達なんだから』  そんな脅迫めいた言葉を無邪気な笑顔で言ってくるはずだった。  だが、その日は違った。  何も言わずに虚ろな瞳を向けてきて、相変わらずに気持ちの悪い呼吸を繰り返していた。  長い髪が顔に貼り付き、汚らしい印象を与えていた。  少女の体は闇に飲み込まれており、しっかりとは認識できなかった。  ちゃんと目にすることが出来るのは、隙間道から伸びる、俺の手首を掴んでいる小さな手だけ。  だがそれも、時折朧気に揺らいで、所々輪郭を失っているように見えた。  思わず掴まれている腕を引くと、少女はぎりぎりと俺の手首を強い力で握ってきた。  口元に笑みを浮かべたまま、幼い女の子とは思えないほどの力で俺の手に爪を立てる。  その時はまだ怖さが蘇ることはなかった。  それよりも、鋭い痛みを与えられ、どうしてこの子は俺に意地悪をしているんだろうと、そんな風に不思議に思っていた。  変な呼吸も、暑さのせいだと思った。  でも、 「足がね、抜けなくなっちゃったの」  具合の悪そうな、震える声でそう言い、その子は自分の足元に目をやった。  俺もそれに合わせて、視線を落とした。  そして、驚きのあまり息までも止めて目を見開いたまま固まった。  少女の足には、ぎょろりとした無数の目玉と、歯を剥き出しにあんぐりと開かれたいくつもの人間の口が、びっしりと埋め込まれていた。  湧き上がる壮絶な恐怖に、何故か悲鳴を上げることはできなかった。  でも、体は小刻みに震えていた。  女の子はけらけらと笑いながら俺の手を引っ張り寄せた。  それに必死に抵抗すれば、今度は女の子の煤だらけの長い髪が、踏ん張る俺の右足首に絡みついてきた。  髪の毛は俺の足首を締め上げ、反対の足にも蛇のようにグネグネと迫ってくる。 「う、わあああ!」  そこでようやく俺は大声を上げた。  声を出すとより強い力が出るとよく言うが、あれは本当のようだった。  俺は少女の小さな手と気味の悪い髪の毛から脱し、死に物狂いでその路地から逃げ出した。  その夜は夕飯も食べずに、布団の中でガタガタと震えていた。  
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