くそばばぁ!

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くそばばぁ!

夫からの連絡が入り、市民病院へ運ばれたらしい。 「さ、行くよ礼子。保険証とお財布と持った?私、乗せてくから」 「うん、ありがとう、美和子」 市民病院の救急外来へ向かう。 「よかったね、見つかって」 「…うん…」 助手席の礼子は、何か思い詰めたように見える。 「怪我の具合を確認してさ、それから考えようよ。旦那さんにも連絡したほうがいいんじゃない?今度はいつ帰ってくる予定?」 「えっと、いつだったかな?なんか細かいこと記憶できなくてさ…」 「睡眠不足が続いてるからだね、なんとかできないか、相談してみよう、ほら、なんだっけ?病院にいる、なんちゃらさん」 「え?」 「なんとかワーカー?」 「あ、ソーシャルワーカーかな」 「うん、なんでもいいけどさ、プロに聞いてみよ」 ナースステーションで確認して、処置室へ向かった。 「お、きたきた!こっちだよ」 処置室の前で夫が待っていてくれた。 「ありがとう!よく見つかったね」 「うーん、勘?イメージ的にどこかにうずくまってるような気がしたんだよね」 「なんで?」 「ほら、よくテレビでさ、認知症になってしまった人が頭を抱えて小さくうずくまってるシーンを見てたから?よくわからないけど。あの団地の外側に大きな排水路があるの、知ってる?そこに落ちたのかな?土管の入り口のとこでうずくまってるのが見えてさ。れいちゃんのばあちゃん?って聞いたら違う!って言うから、逆にそうだと思った」 よくわからないけど、夫の勘とやらでばあさんは発見できたようだ。 「すみません、ありがとうごさいました」 夫に深々と頭を下げる礼子。 「えー、そんなかしこまらなくてもいいよ、友達じゃん?」 「でも、朝早くからずっと、こんな…」 「あーーっ!しまった、会社に電話しないと無断欠勤になっちゃうよ、ごめん、電話してくる、ついでに一服!」 「一服の方が目的だろがっ!」 そう言いながら、なんだかんだと頼れる人なんだなと夫をほめたくなった。 「あの、ご家族の方はどちらですか?」 処置室から看護師さんが出てきた。 「はい、私です」 「先生からお話がありますので、こちらへ」 礼子が中へ入った。 私は通路にある長椅子に腰掛けて、ほっと息をついた。 しばらくして、夫が戻ってきた。 「説明がめんどくさいから、嫁が倒れたことにしといた」 「はぁ?そっちのほうが面倒でしょ!」 「不死身だから1日で復活したって、明日話すからいいよ」 _____まぁ、なんでもいいか 「それにしても、本当にお疲れ様でした。よく見つけてくれたね。助かったよ」 「うん、なんかさ、俺を見てずっとカズヨシって言ってたんだけど、もしかして、れいちゃんの旦那さん?」 「あー、そうだわ。息子さんと間違えられてたんだね」 「そう思ったからさ、母さん、迎えに来たよって話しかけたら、素直にしたがってくれたんだ。で、本人は?」 「中国だったっけか?でも、話して帰ってきてもらうようにするよ、もう礼子が限界だから」 そんな話をしていたら、ガッシャーンと金属の何かもろもろが落ちた音がした。 「おかあさん、やめて、落ち着いて、ね」 「静江(しずえ)さん、わかりますか?ここは病院ですよ、落ち着いてくださいね」 「あんた、誰だ!うちの和義(かずよし)はどこ行った!出てこーい、カズヨシ!!」 大きなばあさんの声がした。 暴れているようだ。 これはなんとかしないと、礼子がもたないと強く思った。
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