443人が本棚に入れています
本棚に追加
くそばばぁ!
夫からの連絡が入り、市民病院へ運ばれたらしい。
「さ、行くよ礼子。保険証とお財布と持った?私、乗せてくから」
「うん、ありがとう、美和子」
市民病院の救急外来へ向かう。
「よかったね、見つかって」
「…うん…」
助手席の礼子は、何か思い詰めたように見える。
「怪我の具合を確認してさ、それから考えようよ。旦那さんにも連絡したほうがいいんじゃない?今度はいつ帰ってくる予定?」
「えっと、いつだったかな?なんか細かいこと記憶できなくてさ…」
「睡眠不足が続いてるからだね、なんとかできないか、相談してみよう、ほら、なんだっけ?病院にいる、なんちゃらさん」
「え?」
「なんとかワーカー?」
「あ、ソーシャルワーカーかな」
「うん、なんでもいいけどさ、プロに聞いてみよ」
ナースステーションで確認して、処置室へ向かった。
「お、きたきた!こっちだよ」
処置室の前で夫が待っていてくれた。
「ありがとう!よく見つかったね」
「うーん、勘?イメージ的にどこかにうずくまってるような気がしたんだよね」
「なんで?」
「ほら、よくテレビでさ、認知症になってしまった人が頭を抱えて小さくうずくまってるシーンを見てたから?よくわからないけど。あの団地の外側に大きな排水路があるの、知ってる?そこに落ちたのかな?土管の入り口のとこでうずくまってるのが見えてさ。れいちゃんのばあちゃん?って聞いたら違う!って言うから、逆にそうだと思った」
よくわからないけど、夫の勘とやらでばあさんは発見できたようだ。
「すみません、ありがとうごさいました」
夫に深々と頭を下げる礼子。
「えー、そんなかしこまらなくてもいいよ、友達じゃん?」
「でも、朝早くからずっと、こんな…」
「あーーっ!しまった、会社に電話しないと無断欠勤になっちゃうよ、ごめん、電話してくる、ついでに一服!」
「一服の方が目的だろがっ!」
そう言いながら、なんだかんだと頼れる人なんだなと夫をほめたくなった。
「あの、ご家族の方はどちらですか?」
処置室から看護師さんが出てきた。
「はい、私です」
「先生からお話がありますので、こちらへ」
礼子が中へ入った。
私は通路にある長椅子に腰掛けて、ほっと息をついた。
しばらくして、夫が戻ってきた。
「説明がめんどくさいから、嫁が倒れたことにしといた」
「はぁ?そっちのほうが面倒でしょ!」
「不死身だから1日で復活したって、明日話すからいいよ」
_____まぁ、なんでもいいか
「それにしても、本当にお疲れ様でした。よく見つけてくれたね。助かったよ」
「うん、なんかさ、俺を見てずっとカズヨシって言ってたんだけど、もしかして、れいちゃんの旦那さん?」
「あー、そうだわ。息子さんと間違えられてたんだね」
「そう思ったからさ、母さん、迎えに来たよって話しかけたら、素直にしたがってくれたんだ。で、本人は?」
「中国だったっけか?でも、話して帰ってきてもらうようにするよ、もう礼子が限界だから」
そんな話をしていたら、ガッシャーンと金属の何かもろもろが落ちた音がした。
「おかあさん、やめて、落ち着いて、ね」
「静江さん、わかりますか?ここは病院ですよ、落ち着いてくださいね」
「あんた、誰だ!うちの和義はどこ行った!出てこーい、カズヨシ!!」
大きなばあさんの声がした。
暴れているようだ。
これはなんとかしないと、礼子がもたないと強く思った。
最初のコメントを投稿しよう!