くそばばぁ!

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たとえれば…。 自分の家に、勝手に知らない人が上がり込んで勝手に冷蔵庫をあけて物を食べ、勝手にお金を持ち出して、勝手に家に居座って、出て行けと言っても力ずくで押さえ込まれて…。 身内や家族がわからなくなって、周りのことがなにもわからなくなって、孤独な世界に引きずり込まれるような…そんな感覚なのだろうか。 礼子のばあさんを探した日。 ばあさんは検査入院をすることになり、礼子はひとまず落ち着いたようだった。 礼子を家まで送って、夫の運転で家に帰ってきた。 「怖い病だね、わからないって不安しかないもんね」 「実際にそうなったわけじゃないから、なんとも言えないけど。わからないっていうことがずっと続くと思うと地獄だよ」 「いつか俺もそうなっちゃうのか?」 「ならないことを祈るしかないかも?誰がなるのかなんてわからないし」 「ならないかもしれないしな」 「そうだといいね。いつまで元気に動き回れるかもわからないし。もう子供も手がかからないから、これからはそれぞれ楽しいことをやろうよ」 「そうだな、一理ある。ということでさ、俺、欲しいものがあるんだけど、買ってもいい?」 「予算は?」 「実は、小遣いを貯めておいたやつがあるんだよね」 「じゃあ、ご自由にどうぞ」 「よっしゃあ!」 まるで、おもちゃを買ってもいいと言われた子どものようにはしゃぐ夫が出してきたのは、大型バイクのカタログだった。 あーでもない、こーでもないとあれこれ説明してくる夫。 元々バイクは好きで、大型の免許もとっている。 子育てが落ち着いたら、バイク仲間であちこちツーリングをするのが夢だとずっと言っていた。 _____いいなぁ 「ね、私も何か始めてもいい?もちろん、予算は自分のパート代から出すからさ」 「いいよ、好きにやって」 「よし!何がいいかなぁ?」 ネットを検索して、楽しそうなことを探すことにした。 それから3日後。 礼子が旦那さんとうちにやってきた。 「この間はどうもありがとうございました。本当に助かりました。これ気持ちばかりですが…」 お礼にと有名なロールケーキを持ってきてくれた。 「これ、美味しいやつだ!ありがとうございます。あの日は私なんかより、うちのパパが活躍してくれたので」 「なんだか、母さんが僕と勘違いしてたとか?」 「ええ、まぁ、そのおかげで(なだ)めることができたんだけど」 「本当に助かったよ、美和子と旦那さんがきてくれて」 「礼子、少しは眠れた?」 「うん、ばあさん、しばらく入院することになったから今のうちに体力回復しとく」 顔色もいくらかよくなって、笑えるようになっていた。 やっぱり、旦那さんがいると違うんだなあ。 「これから施設も積極的に探してみることにしました。今まで礼子に任せっきりだったので、これからは協力して介護をします。これからもうちの礼子をよろしくお願いしますね」 「こちらこそ」 ひとまず、安心した。 ピコン🎶  『あの手紙のことは、内緒でお願い!』 礼子からのLINEだ。 旦那さんには知られたくないよね? 「了解!」 と返しておいた。
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