享年81歳

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享年81歳

あっという間だった。 礼子のお姑さん、ばあさんが亡くなったのは。 徘徊して転んで検査入院したら、末期の癌が見つかって…そのまま入院して。 2ヶ月くらいか。 「お疲れ様、礼子。いままでよく頑張ったね」 お葬式が終わって少し落ち着いた頃、改めて礼子の家を訪ねた。 「なぁんかねー、気が抜けちゃって」 祭壇には白い箱と、遺影があった。 「最期は、間に合ったの?」 「うん、容態が急変したと病院から連絡があってね。かけつけたらベッドでばあさんが苦しがってたんだ。で、私、思い出したの、元気な時にばあさんが言ってたこと」 「なんて言ってたの?」 「もしももう最期って時には、手を握って欲しいって。1人だと怖いから大丈夫だよって手を握って言って欲しいって。だから、すぐに手を握って、大丈夫だよ、ここにいるよって声をかけたんだ」 「そうなんだ…、でも、礼子を分からないんじゃなかったの?」 「それがね、多分だけど、ふっと意識が戻ってしっかり私を見た、あの目は私をわかってる目だった、そして、涙がね…」 「ばあさんが?」 「ん、そう、ツーっと。そして目を閉じてさ、そしたらフッと最期の呼吸をしてね、逝っちゃった…」 「そうか、よかったね、気持ち、通じたんだね」 遺影のばあさんは、穏やかに笑っている。 「ありがとうって言ってるみたいな写真だね。そういえば旦那さんはどうしたの?」 海外に行かないことにすると退社かも?と言ってた。 「それがね、上司の計らいで、落ち着くまでは休職でいいって言われてて。昨日からやっと復職した。でも、もう海外には行かず後輩の指導にあたるみたい。ちょうどそんな年齢になってたしね」 「そうか、もうさびしくないね」 「うん、それにね…」 礼子は大きな紙袋を出してきた。 「これ、見て!」 取り出したのはカラフルなパンフレット。 エステや美容院、ヨガやエアロビ、メイク用品、ファッション雑誌。 「どうしたの?これ」 「うちの人がね、こういうのたくさんやってリフレッシュするといいよって、集めてきてくれたの」 「おぉっ!これはすごい!」 私は高級そうなパンフレットを一つ取り出した。 簡単な美容整形のパンフレットだった。 「ねっ!これどう?顔の皮引っ張るやつ!私、やろうかな?ね!」 「もう、美和子ってば。でも楽しそうでしょ?」 「うん、旦那さん優しいね」 「優しいのかなあ?これ渡す時に言われたことがあるんだけど…」 「なんて言われたの?」 「そのままだと、女として終わってしまうよって」 「…誰のせいよ、ねー!」 「そうなんどけどね、ばあさんが病気になってからなにもかもほったらかしだったから、本当にこのまま女をなくしてしまうとこだったよ。美和子にはあんな偉そうなこと言っておいてね」 脱皮。 「礼子も自由になったことだし。一緒に脱皮しよっ!」 「うん、何から始める?」 まず美容院行って…それから、お洒落な服を買って、それから… 「私、資格取る!」 礼子はもうやりたいことが見つかっていたようだった。
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