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美容院とお買い物と隣の奥さん
雑誌とネットで調べた、お洒落な美容院。
店長はカリスマと呼ばれてるとか(東京でもないのに?)
爽やかな笑顔の若い男性店長がいる美容院は、すっかりオバサンになってしまった私には敷居が高い。
「よし、予約完了!2人とも同じ時間で入れたよ」
「よかった、1人だとちょっと二の足踏んじゃうから」
「ここで、このイケメンカリスマ美容師とやらに、イケてる髪型にしてもらおうよ」
「イケテルって、今でも言うの?」
「いや、知らん。でも意味はわかるでしょ、相手はプロのサービス業なんだから」
そう。
1人じゃフットワークが重くて遅いオバサンも、複数になると俄然強気になる。
頭の中では、白髪が目立つ髪を染めて軽やかにウェーブして垢抜けた自分がポーズをとっている。
もちろん、顔も若返って。
妄想だけは、いくつになっても逞しい…いや、歳をとるほど図々しくなるものかもしれない。
「せっかく髪型がいいのになるなら、服装もそれなりにキメたいね」
「じゃあ、先に服を買っちゃう?それ着て美容院行こうか!」
「えっ、でもこの髪型じゃ、服屋さんも見立てに困るんじゃない?」
「いいや、売りたいんだからそこそこいいやつを勧めてくるよ」
「だったらさぁ、メイクもちゃんとしたいよね?」
「うーん、じゃあ、どれが先?美容院?服屋?メイクショップ?」
まるで鶏と卵どっちが先か?みたいになってきた。
「テレビでよくやってる変身してくやつってさ、髪からだよね?それからメイクして着替えて…」
「じゃ、やっぱり美容院だね!変身を楽しむなら普段通りでいいか。そして少しずつランクアップ!とか」
「そうしよう!」
たかが美容院。
でも気合いの入れ方が違う。
私と礼子は、これからの自分を自分でプロデュースすることにした。
だからその第一歩となる新規開拓の美容院は、とても重要なのだ。
5日後。
今日は礼子の車で美容院へ行く。
「なんか、ドキドキするね」
「うん、初めて美容院に行くみたいな?」
「どんな髪型にしようかな?」
「まずは、オススメを聞いてみる?」
駐車場に車をとめて降りようとした時、カフェテラスのような正面玄関から、お客さんを送り出す美容師が見えた。
「あ、あれ、店長じゃない?」
「え?店長自らお見送り?すごいね」
「あれ?あの人…」
大きな花柄のワンピースにシフォンのストールを羽織って歩いてくる女性。
セットしたばかりの長い髪は、大きなロッドで巻いたであろうウェーブが緩やかに風になびいている。
メイクはキツめ、いや、あれは派手目と言うのか?
「昭和の女優みたいだね」
「しっ!」
「どうしたの?」
「目を合わさないでね」
「うん…」
2台あけた駐車場にとめてあった車に乗り込むのが見えた。
あの、五輪マークみたいな外車。
そのまま駐車場から出て行った。
「誰だったの?あの女優もどきは」
「隣の奥さんだよ、イメージは全然違ったけど、少し癖のある歩き方とあの顔は間違いない」
「へぇー、お金持ちなんだね」
「…そこは、なんか違う気がする。ま、いいや、行こうか!」
「うん。ね、私らもつば広の帽子とか、サングラスしてくればよかった?」
「なんでか?」
_____あの奥さん、いつのまにあんな風に変わったんだろ?
その時はそれくらいしか思わなかった。
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