初顔合わせ

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初顔合わせ

午後1時という遅めの予定だったにもかかわらず、集合場所のホテルに着いたのは10分前だった。 「よかった、間に合った」 レストランの入り口まで歩く。 「まだ余裕だったじゃん?」 「ギリギリでしょ?誰のせいでこんなギリギリになったのよ」 「俺のせいか?」 夫が出がけに、やれタバコを一服とか、やれ靴下が気に入らないとか、財布を忘れたとかで時間をとった。 「あ、ちょっと待て、トイレ行ってくる」 「はぁ?なんで済ませて来なかったのよ!」 「ちょっとハンカチ貸して」 「嘘でしょ!テーブルに出しておいたのに」 「忘れたんだよ」 「ギリギリまでスマホゲームしてたからでしょ!」 だいたいいつものことだ。 遥那(はるな)(ひじり)も顔を見合わせて、苦笑いをしてる。 けれど、今日はなんだかとてもイライラした。 なんとか、遅刻したわけでもないのに。 きっと、娘の大事な日にいつもと変わらずのマイペース夫に腹が立っているのだ。 結局、レストランに入ったのは2分前だった。 【遠野家・田中家】とプレートが掲げられた個室に通される。 「「こんにちは」」 「すみません、遅くなりました」 相手の遠野(とおの)さんのご家族は、もうとっくに着席していた。 雰囲気を見ると、余裕を持ってやってきてゆっくりと待っていたように見える。 _____やっぱり、もっと余裕を持ってくればよかった ギリギリに来てしまったことが、とても恥ずかしく感じた。 おもむろに立ち上がる遠野(とおの)家の人たち。 腰掛けそうになっていた私たち家族も慌てて立ち上がる。 「はじめまして、遠野(とおの)晶馬(しょうま)の父の(あきら)です。こちらが母の紗英(さえ)、弟の圭太(けいた)です」 「えっと、はい。あの晶馬(しょうま)君はもう何度かお会いして…」 夫が何か言いかける。 「違うでしょ、こちらも紹介してパパ」 _____あっ、パパって呼んじゃったよ 「俺…あ、僕が遥那(はるな)の父の隆一(りゅういち)、こっちが母の美和子(みわこ)、弟の(ひじり)です」 「本日は、お越しいただきありがとうございます。では、さっそくですが、お料理を運んでもらいましょうか?」 「はい、そうですね」 「では…」 軽く手を上げ、係の人を呼んで料理を用意してくれる遠野(とおの)さんのご主人。 _____いいなぁ、落ち着いてて、こんな場所も慣れていそうで 少し年上だけど、それだけではない落ち着きが感じられる。 _____こんなご主人なら、毎日の家事もゆったりできそうな気がする いくつになっても、よそのご主人と比べてしまうのは私の悪いところかもしれない。 うちの夫が特別、よくない夫というわけではないのだけど、多分…ないものねだり? 「毎日、暑い日が続きますね」 「そうですね、冬は冬で寒いのも嫌ですけどね」 当たり障りのない会話で、食事会という顔合わせは進んでいった。 ただ、私だけ、少し… _____あれ?エアコン、切れた?ものすごく暑いんだけど…
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