444人が本棚に入れています
本棚に追加
体調不良?
____ダメだ、なんで?暑い、暑すぎる!
周りの誰もそんなに暑がっていないのに、私だけ汗が吹き出してくる。
もともとそんなに汗かきじゃないはずなのに。
「晶馬さんは、市役所勤めなんですよね?なかなか大変じゃないですか?」
「えぇ、まぁ。特にまだ若いので苦情処理が主な仕事になってます」
会話をしながらでも、流れる汗は容赦ない。
持っていたハンカチでは足りなくて、おしぼりも使う。
「ちょっと!お母さん、どうしたの?大丈夫?」
やっぱり、婚約者の前ではママじゃなくて、お母さんなんだね、とか思いながらも汗が止まらない。
「あ、もしかして…すいません、ちょっと!」
店員さんを呼んで何かをお願いする紗英さん。
店員さんはすぐに、ふかふかのタオルを持って来てくれた。
「お客様、これをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
清潔なタオルは、流れる汗を吸い取ってくれて顔まわりがさっぱりした。
「すみません、なんか急に…」
「いえいえ、私も奥様くらいの時に経験がありますから。イヤですよね?女って」
_____あ、これ、ホットフラッシュってやつ?
そうか、更年期だ。
そういえばもう生理もなくなってた、と今頃思い出した。
「おいおい、食事中になんだよ、失礼じゃないか」
夫が偉そうに言ってくる、それはわかってるけど。
「そんなこと言われても…」
「田中さん、それは無理な話ですよ、本人にもどうにもできないことなんですから。それより奥様、他に気分が悪いとかないですか?」
_____紗英さん、優しい!
「もう大丈夫です、落ち着きました」
「この後はグッと体が冷えて来ますから、風邪をひかないようにしてくださいね」
「ありがとうございます」
遠野家の人たちは、何もなかったようにスマートに食事を続けていた。
「すみません、ほんと」
「いえ、お気になさらず。女性は色々と大変だと妻に何度も言われましたので」
穏やかに笑う遠野さんのご主人。
それに引き換え…
よほどお腹が空いていたのか、ガツガツと食べ進める夫。
私の心配もしてくれてない。
_____もうっ!おぼえてろっ!
「お母さん、これ…」
遥那がテーブルの下から小さな鏡を渡して来た。
_____おわっ!ひどい顔!!
「すみません、ちょっと失礼します」
お手洗いに立ち上がり、通り過ぎざま夫の椅子を蹴飛ばした。
「あつっ!」
手に持っていたおすましのお椀を揺らしてしまったようだ。
「あら、ごめんね、慌てちゃって」
素知らぬ顔で手洗いへ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!