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礼子の異変
礼子と電話で話してから一か月ほどが経った。
あれから私は、本屋さんで見かけた私世代向けの雑誌を買い込んできた。
これまではそんなに興味がなかったオシャレにも、力を入れるようになった…といってもちゃんと美容院で白髪染めをするようになったり、お風呂上がりのスキンケア化粧品を丁寧に塗り込んでみたり。
「そんなにぬりぬりしたって、もう遅いだろうに」
「ふぁ?ふぉっふぉいへ(ほっといて)」
「そんな、歌舞伎みたいなパックしたってさ、もう吸収しないって」
「ふん!」
_____効果があるかなんかより、やってますって気持ちが大事なの!
なんとなーくだけど。
自分のために自分のことに力を入れるって楽しい。
こんな気持ち、髭剃りもめんどくさがる夫にはわかるまい。
「俺、先に寝るわ」
私は無言で手を振った。
夫は早めに寝てしまう、いや、もしかすると寝室で1人で何やらやってるのかもしれないけど(あの雑誌とか?)
そんなことはどうでもいいし。
1人、ゆっくりソファに座ってテレビを見る。
子どもたちは今日はそれぞれ泊まりだと言ってたから、夫が寝た後はのんびりの時間だ。
録画しておいた不倫ドラマをまとめて見ようかな?
_____そうだ、買っておいたお酒でも
小さなグラスに、とっておきの日本酒を注ぐ。
ありきたりだったそのドラマのせいか、久しぶりの日本酒のせいか、私はいつのまにかうたた寝していた。
ぷるるるるるるる🎶
ぷるるるるるるる🎶
_____あー、もう起きる時間?もう少しだけ寝たい
ぷるるるるるるる🎶
ぷるるるるるるる🎶
「あっ!電話かっ」
テーブルの上に置いたままのスマホが着信を告げていた。
発信者と時間を確認する。
【午前5:25 礼子】
え?
「もしもし?礼子?どうしたの?」
『………』
電話の向こうの礼子からは、言葉がきこえない。
「ね、礼子だよね?どうした?何かあった?」
『……ど、どうし…どうしよ…』
震えているような声がする。
いつもの礼子じゃない、でも、礼子の声に間違いない。
「何があった?」
『わ、わた、わたし、こ…』
「はい、息を吸ってー、吐いてー、もう一回吸ってー、吐いてー。ほら、落ち着いて」
『う、うん、あの…あのね、ばあさん、いない…』
「また、徘徊?いつから?」
『11時ちょっと過ぎから』
_____6時間あまりか
「心当たり、探した?」
『ううん』
「え?」
『探してない…』
「どういうこと?警察には?」
『私、殺しちゃったかも!!』
「えぇーーーーーっ!」
礼子の言葉にびっくりして勢いよくソファから立ち上がったら、左のほっぺからカピカピになったパックがハラリと落ちた。
うわーんと、泣いているような礼子。
「今から行くから、今家だよね?動かないで、絶対だよ」
今の礼子の話では何が何やらわからない。
_____殺したかも?まさかっ!
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