親友(ダチ)

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 高校時代、俺たち三人は地元では知らぬ人が居ない族の頭を張っていた。  しかしそれは過去の話。俺たちはそれぞれ別の道を進んだ、一人は家業を継ぎもう一人は都心で就職、変わっていないのは俺ぐらいなものだ。バラバラなった俺たち、それでもお盆の時期になると自然と昔よく通っていた髭面のおやじが営むボロっちい焼鳥屋に自然と集合するのだ。  俺がきた時にはすでに一人、カウンターに座っている奴がいた。こいつの名前はヤマト、地元に残って家業を継いだ奴だ。自動車整備を営むこいつはオイルで汚れたつなぎのまま店に訪れ、茶色の液体が入ったジョッキを傾けていた。  俺は声をかけずヤマトの右隣に座った。ヤマトは俺を気にする様子を見せなかった。昔からなれ合わず、そして物静かな奴。しかし心の奥の芯だけが熱い、そんな男だ。 「かわってねえな、お互いにな。」  俺はボソリとつぶやくが当然のように反応を見せなかった。  俺がつぶやいてまもなく店の戸が開く。そこには少しヨレたスーツを着たなじみある顔が立っていた、三人のうちの一人、タケルだ。  タケルは入るやいなや店のおやじにビールと串盛りを注文し、俺の隣に座った。  しばらく会話は無かった。タケルがビールと串盛りを半分ほど食べた頃、珍しくヤマトが口を開いた。 「真面目になったもんだな。」  それは明らかにタケルに向けての言葉だ。俺はチラリとタケルがテーブル上に置いたマスクに目を向ける。 「ああ、感染症対策やらソーシャルディスタンスやら色々言われるんだ。ワクチン接種だって拒否権無しにやらされるのが会社だ。昔ならきっと無視して暴れてたんだろうな。」  タケルの言葉を聞き、ヤマトが少しほほえむ。 「お前だけじゃないさ、俺だって変わった。酒はやめたしタバコも吸わねぇ良い子ちゃんさ。変わらねえのはバカだけだ。」  バカと呼ばれる人物は俺だ、しかしそれは愛称で悪口でないことを知っていた。昔から俺は率先してバカばっかりやっていた。他校に殴り込んだりほかのグループと喧嘩したりはたいがい俺が提案していた気がする。今も彼らと違い変わらぬ俺にはバカと呼ばれても返す言葉は見あたらず、かろうじて出た言葉は負け惜しみにも近い言葉だった。 「俺は変わっていったお前らがすげえと思うし、うらやましいとも思うぜ。」  再びの沈黙、なにやらいつもとは違う感じだ。ヤマトからは普段からは感じられぬ重たい空気がある。そんな空気を俺とタケルは感じ取っていた。  重たい空気を打破しようとタケルは楽しかったことを思い出していた。 「そうだ去年、いや一昨年だ。その時みたいに今度二人でカッ飛ばそうぜ。」  タケルの出した言葉に俺はちょっとふざけながら答えた。 「なんだよ、俺も誘えよー。二人より三人の方がいいだろ。俺の新しいテクを見せてやるよ。」  こんなやりとりがあってもヤマトは眉すら動かさない。ただ寂しそうに、呟くように返事をする。 「確かにそれは良い案かもな・・・・・・でももう無理なんだ、バイクを売っちまってな。」  俺もタケルも言葉が出なかった。ヤマトがバイクを手放すというのはそれだけ衝撃的なことだった。 「何で売ったんだよ!お前にとってバイクはそんなもんだったのか!?」  俺は思わず声を上げてしまった。ヤマトも負い目を感じてかうつむいたまま反論しなかった。  タケルは黙ってビールを飲み干し、そしてヤマトに優しく声をかけた。 「・・・・・・そうか、売ったのか。」  タケルは落ち着いて接しているが俺の興奮は収まらない。 「あのバイクと魂を共有してたお前が?嘘だろ、信じらん。もしかして騙そうとしてるのか!?」  ヤマトはそのまま静かに、そして何かを決意してから話し始めた。  「俺さ、結婚するんだよ。相手の腹の中にはもう子供もいてな。」  本来は喜びの言葉をかけるべきだったのだろう。しかし昔を思い返していた俺たちは、あまりのギャップのある返事に言葉を出せずにいた。  少ししてタケルは小さく微笑んだ。 「俺みたいな奴、式には呼ぶなよ。」  場の空気が変わった感じがした。俺はタケルの言葉に続いた。 「俺は呼べよ、バッチリ盛り上げてやるからな。久々に改造爆竹やスモークを作らねえとな。」  そんな俺らの返事を聞いて、ヤマトも少しだけ微笑んだ。 「ぜってえ呼ばねえよ。」  気が付けばテーブル上の食器は全て空になっていた。ヤマトは何か満足げに席を立つ、それを見て俺とタケルも席を立った。  ヤマトとタケルは支払いを済ませ外にでる。ヤマトは一台の自転車に手をかけた。 「本当にバイクが無いんだな。」  タケルが言う。 「ああ。送ってやれなくて悪いな。」 「気にするな、どうせ俺は最終の新幹線に乗るだけだ。今日は半日戻れただけで、明日から変わらず仕事さ。」  二人はしばし沈黙する。 「やっぱり変わらないのはバカだけだな。」  ヤマトがつぶやく。 「そうだな。お前も昔はカッコいいバイクだったのに、今ではダサい自転車だ。」  そのやりとりをみて思わず俺は笑ってしまった。少し遅れてヤマトとタケルもようやく声を出して笑った。 「来年も笑おう。」 「だな。」  そして二人は帰路に向かって進み始めた。  さて、俺もそろそろ帰らないと。ヤマトの自転車に負けないくらいダサくてトロい、ナスの牛に乗ってな。
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