茶色い封筒

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茶色い封筒

 遡ること、約3年前。  歯医者嫌いの連れが、数年越しにようやく歯医者に行ったときのこと。 なにやら見慣れぬ、茶色い封筒を持って帰ってきました。 「なんそれ」 ちなみに私は、九州出身です。終始戸惑わず訛り続けます。 「なんか噛み合わせがよくないみたい」 まるで他人の封筒を持たされたような迷惑感をかもして、テーブルに適当に封筒を放り投げた、後に顎がサイボーグになる我が連れ。 「へぇ」 薄情な私にとっては他人事なんで、なんとなく返事をしました。  この段階では、まさか3年後、連れの顎がプチサイボーグになるなんて、夢にも思ってなかったのです。  我が夫婦は、どこにでもいる20歳以上歳が離れたただの年の差夫婦です。 なんの面白味もありません。 夫婦でなにか特別な能力や趣味を持っているわけでもなく、のんびりクワガタのブリードをしています。 連れは会社員、私は大好きな自宅でフリーライターをしています。 根っからの人間嫌いなので、自宅が大好きです。  そんなありふれた夫婦に訪れた、連れの顎の不調。 話を聞くと、どうやら生まれつきらしいのです。  我が家があるのは田舎なので、最寄りの歯医者まで車で10分くらいかかります。 その歯医者さんに、どうやら偶然口腔外科の先生が居たらしいのです。 今はもう在籍してないようなので、ほんとにラッキーでした。  どうやら、かみ合わせを先生が見た瞬間にアウトだったそうです。 連れ曰く 「噛み合わせが深すぎて、これじゃ入れ歯とか差し歯とか使っても、すぐダメになります。矯正歯科に行って、外科手術になるんじゃないかなぁ」 と、言われたそうな。 そんなことある?って思いますよね。 私も最初は、なんやて?としか思えなかったです。  ただ、心当たりはありました。 以前別の歯医者で連れが部分入れ歯を貰ったとき、外れやすいだのズレるだの、文句をいってすぐ使わなくなってしまったことがあります。  入れ歯って安くないから、文句ばっかタレんと、黙ってタフデント使えよって思ってました。 なかなか連れはご不満が多いタイプなんで、ちょっとでも嫌だと思うと絶対手をつけないんです。  手がかかりますね、そうですね!そう思います! でも、単純にワガママこいてた訳じゃなかったのかと、このときなんとなく納得したのを覚えてます。  テーブルに投げられた茶封筒には、矯正歯科への紹介状が入っていました。 電話番号も書かれていたため、とりあえず早めに連絡するよう連れに声をかけて様子見。 本当なら、その日のうちに矯正歯科に連絡をして、さっさと予約をとって欲しいと思う程度に私はせっかちです。 けど、連れは自分のタイミングじゃないと物事を進めないタイプ。 どぎまぎしながら、2ヶ月待ちました。  2ヶ月も、待ちました。 待てど暮らせど、連れの口からは言い訳がつらつら。 「会社休めんから」 「お金かかるし」 「その日はちょっと」 これを2ヶ月繰り返しました。 繰り返し続けるには十分な時間が経ったため、私の堪忍袋がプッチンになり、結局予約は私がして差し上げました。  予約してしまったら諦めがついたようで、連れはようやく、いやいや矯正歯科に通うことになりました。  想像以上に長く通院するなんて、露とも知らずに。
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