1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
茶色い封筒
遡ること、約3年前。
歯医者嫌いの連れが、数年越しにようやく歯医者に行ったときのこと。
なにやら見慣れぬ、茶色い封筒を持って帰ってきました。
「なんそれ」
ちなみに私は、九州出身です。終始戸惑わず訛り続けます。
「なんか噛み合わせがよくないみたい」
まるで他人の封筒を持たされたような迷惑感をかもして、テーブルに適当に封筒を放り投げた、後に顎がサイボーグになる我が連れ。
「へぇ」
薄情な私にとっては他人事なんで、なんとなく返事をしました。
この段階では、まさか3年後、連れの顎がプチサイボーグになるなんて、夢にも思ってなかったのです。
我が夫婦は、どこにでもいる20歳以上歳が離れたただの年の差夫婦です。
なんの面白味もありません。
夫婦でなにか特別な能力や趣味を持っているわけでもなく、のんびりクワガタのブリードをしています。
連れは会社員、私は大好きな自宅でフリーライターをしています。
根っからの人間嫌いなので、自宅が大好きです。
そんなありふれた夫婦に訪れた、連れの顎の不調。
話を聞くと、どうやら生まれつきらしいのです。
我が家があるのは田舎なので、最寄りの歯医者まで車で10分くらいかかります。
その歯医者さんに、どうやら偶然口腔外科の先生が居たらしいのです。
今はもう在籍してないようなので、ほんとにラッキーでした。
どうやら、かみ合わせを先生が見た瞬間にアウトだったそうです。
連れ曰く
「噛み合わせが深すぎて、これじゃ入れ歯とか差し歯とか使っても、すぐダメになります。矯正歯科に行って、外科手術になるんじゃないかなぁ」
と、言われたそうな。
そんなことある?って思いますよね。
私も最初は、なんやて?としか思えなかったです。
ただ、心当たりはありました。
以前別の歯医者で連れが部分入れ歯を貰ったとき、外れやすいだのズレるだの、文句をいってすぐ使わなくなってしまったことがあります。
入れ歯って安くないから、文句ばっかタレんと、黙ってタフデント使えよって思ってました。
なかなか連れはご不満が多いタイプなんで、ちょっとでも嫌だと思うと絶対手をつけないんです。
手がかかりますね、そうですね!そう思います!
でも、単純にワガママこいてた訳じゃなかったのかと、このときなんとなく納得したのを覚えてます。
テーブルに投げられた茶封筒には、矯正歯科への紹介状が入っていました。
電話番号も書かれていたため、とりあえず早めに連絡するよう連れに声をかけて様子見。
本当なら、その日のうちに矯正歯科に連絡をして、さっさと予約をとって欲しいと思う程度に私はせっかちです。
けど、連れは自分のタイミングじゃないと物事を進めないタイプ。
どぎまぎしながら、2ヶ月待ちました。
2ヶ月も、待ちました。
待てど暮らせど、連れの口からは言い訳がつらつら。
「会社休めんから」
「お金かかるし」
「その日はちょっと」
これを2ヶ月繰り返しました。
繰り返し続けるには十分な時間が経ったため、私の堪忍袋がプッチンになり、結局予約は私がして差し上げました。
予約してしまったら諦めがついたようで、連れはようやく、いやいや矯正歯科に通うことになりました。
想像以上に長く通院するなんて、露とも知らずに。
最初のコメントを投稿しよう!