矯正終了まで

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矯正終了まで

 歯科矯正は、やったことがある人にしか分からない世界です。 骨折とか胃痛とかも、実際体験しないと分からないですよね。それと一緒です。  矯正歯科には、大体1ヶ月に1回通院していました。 1ヶ月毎に歯の位置とかを見て、徐々に徐々に歯につけたワイヤーを締めていくような方法だったと思います。  毎回とまでは行きませんでしたが、予定を合わせられるときは極力連れの通院に連れ添い、待合室で待機していました。  というのも、連れの認識が結構ガバガバなんです。 大切なことを一瞬で忘れたり、それはいらんやろみたいな情報を最重要事項にしたり......。 なので、待合室に戻ってきてすぐ「なにやった?」「先生なんか言ってた?」と、与えられたてフレッシュ!な情報を引き出す必要があります。  とはいっても、病院そのものが大嫌いな連れなので、病室から退散した段階で診察室にかなりの情報を置いてきています。 「今日はなんしたん?」 「ワイヤー締めた」 「先生なんか言ってた?(なにか言ってたのは聞こえてたぞという圧)」 「いや、別に(忘れたわという笑顔)」 こんな具合です。 絶対なんか言ってたのはわかるんですが、それを全部聞きとるのはさすがに無理! 我が耳、聴覚異常で音をめちゃくちゃ拾う耳ですが、それでも無理でした。  本人がわかってればそれでいいかと思ってましたが、先生から直接話しをされた連れ本人が「なんだっけ?」みたいな感じ。 気が気じゃないです。  矯正は上顎から始まり、時期を見て下顎も設置しました。  矯正開始当初の予定としては、上顎1年くらい、下顎1年くらい矯正して、時期を見て大きな病院で手術。 大体2年くらい矯正をして、歯の位置を移動させます。  矯正で歯の位置を移動させて、術後噛み合わせがバッチリに近い状態にするのです!  ってことで、唯一あっていたはずの奥歯のかみ合わせも知らない間かな噛み合わなくなるまでにそう長い時間はかからなかったんじゃないかと思います。 私が矯正してるわけじゃないので、どの辺からかみ合わせがバラバラになったのかは不明。 連れ本人も、多分分かってないです。  予定は未定、という言葉があります。 予定はきっちりこなさなきゃ私の意思とか頭は思考停止してしまうので、未定ほど受け付けない予定はありません。 ただ、そうもいってられませんでした。 上顎の矯正は予定通り1年くらいで大体整いました。 しかし、下顎の矯正がなかなか終わらず。 そうしていると、コロナが流行り始め、時は流れて2年......。 当初の予定を1年オーバーして、3年間矯正しました。  矯正中、じわじわ歯の位置がズレてくるからか、連れはよく口の中を噛んでました。 私は痛みにはめっぽう強いタイプ。骨が折れても、イッたなくらいで収まります。いや、痛いですよ?普通に。 それに比べて、連れは小指を柱でぶつけただけで死ぬほど痛がるタイプ。口を噛んだ時も、「痛〜い!」と大声で主張。 手術が近づいてくると、口を噛む回数も増え、文句タラタラでした。  それから、矯正器具のワイヤーが飛び出るトラブルも、手術が近づいてきたころには割と頻繁にありました。 連れ曰く、歯が器具の力で移動してるから、ワイヤーが余ってきちゃうらしいです。 そのワイヤーが口の中に刺さって、流血してて、口の中が血だらけに......。それはさすがに痛そうでした。  この手術は、学生さんとか若い人が受けやすいもので、連れは学生を遠の昔に終了してます。 時間がかかるかもとはいってましたが、まさか1年もオーバーするとは。 予定は未定ですね。  矯正を初めて、約3年。 ようやく手術を受けられるようになり、術前検査を受けることになりました。  術前検査は、手術を予定している病院で受けます。 大きな病院なので、検査を受けるために、院内をあっちに行ったりこっちに行ったり。院内ツアーを1日かけて満喫できる内容で、満喫前から既に胃もたれ状態です。 その頃連れは足の手術をしたあとだったんで、とりあえず両手に松葉杖をつきながら病院へ。 私は運転手兼荷物持ちです。  連れの足の手術のときも、それなりに大きな病院で術前検査ツアーを受けたので、いわば予習済み。胃もたれしつつも、どこかで「余裕やろ」と思ってました。 人間は愚かな生き物だと、今回の術前検査ツアーを受けて私の身に染みました。  足が悪くて家にいた連れは、基本的に1日中横になってゲームをしてダラダラしたまま。 三食きっちり食べました。なにもしてないのに、たらふく食べる毎日。 ......太りますよね。太りました。  私は基本的にずっと家にいますが、ライター業で朝から晩まで頭をフル稼働させて、家事も8割くらい1人でこなすので休む時間はトイレ休憩くらい。 家にいても爆発的に太る隙がありません。 締切が近くて仕事量がバンと増えると、痩せていきます。(神経の図太い部分と貧弱な部分の差が大きい模様)  普段でもこれなんで、昼ごはんをきっちり作って食器を洗い、普段つけることがないテレビが爆音でついたままのリビングで仕事。神経がごりごり削れて、睡眠でなんとか半分くらい体力を復活させてました。  もともともやしみたいな私ですが、松葉杖をついている連れとのツアーは想像以上の重労働でした......。  荷物は基本、いつも私に全部持ちます。幾分ふくよかになった上に、ゴロ寝ゲーム生活が祟り、連れの体力は低下。松葉杖での移動で汗だくです。  連れは汗かきで代謝の良さがとんでもないので、500のお茶を買って飲んで休んで。 お茶とカバンは私が持ちます。  口腔外科で受診をして、ツアー開始! 最初に内科を受診します。移動で汗だく!大きな病院なので、内科の場所を確認しながらエレベーターで移動します。 無茶苦茶混んでる内科のフロアに入ってしばらくすると、口腔外科のベテラン看護師さん登場。 「車椅子、使いますか?」 地獄の始まりを告げる一言を頂きました。  連れは大喜びで車椅子に座り、もやしの私は車椅子を押します。 車椅子を押すだけならもやしでも楽勝でしたが、荷物も松葉杖も全部担いで車椅子を押すのは体力がどんどん削れていきました。 しかも、ちょこちょこちっさい段差みたいなのがあって、車椅子初心者なんでつまずいちゃうんです。 車椅子って大変と、身に染みながら移動。  内科検診の後、採血会場へ。 採血会場も激混み大繁盛!さすがでっかい病院!涙が出ます。 しばらく廊下の待合で待っていたら呼ばれ、車椅子を押して中へ。 採血を受ける台までは、連れが1人で行きました。  採血会場で採血と尿検査、心電図を済ませて、次にレントゲンへ。レントゲンは、救急が空いていたようで、あっという間に終わりました。 そこから内科に戻りました。  松葉杖か荷物を持ってくれたら、どれだけ楽だろうかと心底思ったのは連れには内緒です。  体力が尽きそうになりながら、内科の前で呼ばれるまで待機。 大きな病院なので、内科の先生が何人も在籍しています。診察室も5個くらい横並びにあり、私たちが呼ばれるのは最初診てもらった1番奥の診察室。  しばらく待つ間、レントゲンの検査結果について話をしました。 前回の入院でレントゲンを撮った際、肺に影があると電話連絡があったのです。  連れは長年タバコを手放せず、結婚する時に「もう辞める」と宣言して9年吸い続けていました。 もう辞めんだろうと、私が諦め始めた矢先の肺の影。 「肺気腫が悪化したんかな」 「さぁどうやろな」 なんて話をしてました。自分の話をされてるのに、さぁどうやろなんて返すのは連れくらいです。 どうか癌じゃありませんようにと、私は切に願いながら名前を呼ばれるのを待ちました。  30分ほど待って名前を呼ばれる、診察室に車椅子を押して入室。 担当医は男性で、とても若そうなでした。イメージとしては、趣味マラソンとか筋トレみたいな雰囲気です。 「肺の影は、心配ないでしょう。僕なら心配なしの範疇の影です。写り方の問題かなといった感じですね」 医師の言葉に一安心。肺気腫の急激な悪化でもなければ、肺がんとかでもなさそうでした。 「ただね〜、レントゲンの後に撮ったCTで脂肪肝が見つかりました」 もう納得しかない、脂肪肝。連れの暴飲暴食を辞めさせるには今しかないと、私は畳み掛けます。 「夜中のおにぎりとかカップラーメン辞めないんです」 「それはいけませんね」 いけませんね、なんて言った先生初めてです。ボクシングとかで例えると、もうラッシュをかけるしかありません。 「コーラは夜だけで1.5L飲み干すし」 「ダメですね」 「味噌汁替わりに、インスタントラーメン食べるし」 「うわ〜いい事ゼロです」 「ぜんぜい、もっどいっでぐだざい!!」 苦節9年、食生活を見直すチャンス!逃してなるものかと、私は必死です。しかし、不摂生魔人の連れも、心地いい暴飲暴食ライフを手放したくありません。 「でも、水分補給で......」 「水飲みましょうね」 一瞬で論破!強いぞ先生!もっと言ってくれ! 「肺気腫なのに、たばこも辞めず隠れてスパスパ」 「ストレス解消の為です」 私の言ったことを、ストレス発散で潰しにかかる連れ。 「体に害がない電子タバコだし」 言い訳に見かねたようで、先生がこちらを向きました。 「電子タバコの害なんて、キリがないほどあります。僕は内科医なんで、肺気腫で最期を迎えた患者さんをたくさん見てきました。肺気腫の最期は悲惨です。肺が水没して、溺れた状態で最期を迎えるため、息ができません。1人でそうなって死んでいくならまだしも、大体そうなる患者さんは家族を頼りきってこれでもかと迷惑をかけます。辞めるなら今です。たばこも食生活も、今回の入院で見直しましょう。ラーメン美味しいから僕も好きでしたが、今は食べてません。食べるなら、たまに位がちょうどいいかなとか思いますよ」 先生の言葉に、いつも私の話には耳も貸さない連れが反省してそうな雰囲気。 ありがとう、先生......。(名前はわからんけど)ずっと顔は忘れません。  連れは意気消沈していますが、このあと入院の説明があります。 さっさと移動です。  入院説明は、専用カウンターがあり、仕切りもありました。 少し前に足の手術をしたので、内容はそれと変わらず。違ったのは、麻酔科の説明だけでした。 前回の病院では、一緒に麻酔科の受診ができました。その時、アレルギーの有無とか持病を麻酔科医に私が解説。 今回は麻酔科の説明を連れ1人で受けると聞いたので、入院説明をしてくれた看護師さんに基本情報を全部伝えました。  入院説明が終わって、ようやく終了。 くったくたになって、車に乗りました。  入院までに、矯正歯科に2度ほど立て続けに行きました。 レントゲンや写真を撮り、手術用兼術後用の器具を交換。 片道50道分ほどかかる道のりなので、連続の受診でクタクタになりました......。  入院準備のものは、だいたい冊子に書いてあったものを私が揃えました。 私が、揃えました!!  入院日程は約2週間を予定。手術を受けたあとは着替えは多分必要ないので、動けるようになってきてからの事を考えて4日分詰めました。 何かあった時のために、1日分追加して、ビニールも入れて、あとは洗面道具とかシャンプーリンスとか。  コロナの影響で、基本的に面会はNG。着替えを引き渡すときに、少し話すくらいはOKでした。  手術したら、しばらく自由に動けないし、好きなものも食べられない。 私も以前死にかけて開腹手術を受けたので、術後のしんどさは切る場所が違えどわかります。 なので、「これが最後」のコーラを3回買って、少し好きなものを食べて手術までの数日間を過ごしました。
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