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10代の前半にさしかかると、男女の差もあってそう一緒にはいなくなった。それでも山際の私たちの家は、数枚の田畑をはさんで数少ないお隣さんだったので、囃し立てる同級生の目があるじゃなし、気軽に遊びに行くこともあった。
学校では物静かでおとなしいというレッテルをはられていたが、あいつの部屋を見ると皆少し意見を変えるかもしれない。いつも見るのは、私が来るからと少しばかりは片づけたのだろうが、そこそこ乱雑な部屋だ。開いたポテチの袋の口にクーラーのリモコンを重しに置いていたり、裏返った靴下がベッドの脇に落ちていたりする。
「前の漫画の続き、読みに来たんだけど」
「うん」
本を読んでいる時は、生返事しか返ってこない。一応女子が部屋に来たんだけど……。あいつの集中力はすごいと思うが、そのわりに抜けているというか、集めているコミックの続刊がもう2か月前に発売されていることにまだ気がついていない。
勝手に本棚を漁った。続き物のコミックが順もばらばらに積み上げられているのを片づけた。求めるコミックはなかなか見つからなかった。
本棚の隅に置かれているチューブをのける。黒に染めるヘアカラー剤だった。あいつ、髪を染めてるんだ。確かに前ほど明るい髪色ではなくなっている。あいつがあまりに自然に擬態していたので、今まで気づかなかった。
あいつはベッドに寝転がって本から目を離さないし、コミックを探す気も失せたので、ベッドの側面にもたれかかってぼんやりと部屋を眺めた。もともと暇だったから来たのだ。ここだろうと自室だろうとたいした変化はなかった。リモコンをのけてポテチを食べる。
こんな時祖母が生きていれば、懐かしのおやつを作ってもらえた。家では柏餅と言っていたが、今思うと柏の葉の上にのせた蒸しパンだったように思う。中に餡子が入っていることもあれば、サツマイモの角切りが混ぜ込まれていることもあった。
ポテチを食べ切ったので、ゴミ箱に袋を捨てようとして、視線が交わる。
「全部食うなよ」
「ほなって暇だったんよ。……でも何か、足りんなあ。柏餅が食べたい」
「……ばあちゃんか」
あいつはベッドから身を起こした。祖母には2人ともかわいがってもらったのだ。共有する思い出がある。
「おばあちゃん、今は天国かな」
本を横に置いて、あいつは目を伏せた。昔、天から授かりし祝福の調べを歌うはずだった唇は、静かに異を唱える。
「俺、死んだら終わりだと思う」
私だって本気で天国が云々思っていたわけではないが、例えば幽霊がいるのかどうか、死後の世界があるのかどうか、おそらく霊感とやらのない私には判断がつかないと思った。あいつもきっとないから、そんなことを言うのだろう。
その後2人でしばらく考えたが、良い答えなど出るはずがなかった。じゃあ私が死んで幽霊になれたら化けて出て教えてあげるよ、そのかわり逆も頼むねと言ったら、馬鹿かと吐き捨てられた。
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