あるよ

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 それ以来、たまに笹井先輩のグループと話すようになった。私の友人たちはそれぞれ笹井先輩のグループに好きな人がいて、毎回目をキラキラさせて話を聞いている。彼らは基本明るい話題で私たちを喜ばせたが、時々無意識に、うっすら毒を含んだ台詞を混ぜた。 「あ~、あいつうぜーじゃん。無視っておけば?」 「オレ、一応、自分からコクって振られたことないんよね~」 「元カノがしつこく言うから、買ってやったけどさあ」  先輩たちが顔をゆがませて言葉を放つたび、苦いと分かっていて盃を飲み干すような気持ちになる。彼らだって見栄を張っていたのかもしれないが、それが分かるほど私は早熟ではなかった。せいいっぱい話についていって、無理に笑みを浮かべた。友人たちはだよねだよねと、笑って頷いていた。  ある日テストの答案用紙が返ってきたと先輩たちが大騒ぎしていた。どうも賭けをしていたようで、仲間内で最も点数が低かった者は罰ゲームらしい。 「罰ゲーム、好きな子に告白にしようぜ!」  1人が言い出した時、ドキリとした。肝が冷える意味で。仮に笹井先輩が最低点ならどうするのだ。この頃先輩の気持ちのベクトルが自分に向いている気がする。……私は笹井先輩が好きなのではなかったのだろうか。そこで初めて自分の本心に気がついた。  先輩たちはえ~だの何だの言って、まだ罰ゲームは決まっていないようだ。友人たちも一緒になってどんな罰が良いかとわいわい盛り上がっている。 「か、紙飛行機作って飛ばすのはどうですか? 何かそんな歌、流行りましたよね?」  いつもそこまで口を挟まない私が声をあげたので、皆少しきょとんとしたが、それいいね~と採用になった。ふっと息を吐く。  案の定というか、最低点は笹井先輩だった。正直、私なら見られたら恥ずかしい点数だと思った。笹井先輩は何か言いたそうにちらっと私を見た。提案して良かったと胸をなでおろす。  紙飛行機をどう作るかでまたひと悶着あったが、先の細くとがった自慢の一機ができあがったようだ。たかだか中庭で飛ばす飛行機だから、他へ行ってしまう心配もない。笹井先輩はおどけながら振りかぶって、思い切り紙飛行機を投げた。
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