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それ以来、私は昼休みあまり中庭に近づかなくなった。完全な不参加というわけではなく、上手にフェイドアウトを狙った。学校行事の関係で頼まれごともあり、仕切り直すタイミングとしてもちょうど良かった。私の中で友人たちとは心の距離ができてしまったが、表面上はやり過ごすことができたし、おそらくクラスが変わればそれで終わりの友人だと割り切った。
笹井先輩とのことは意外と簡単に決着がついた。
ある日の放課後、クラスのクイーン篠川瑛里奈たちから話しかけられた。
「笹井先輩とよく一緒にいるの見たけど、最近どうなってんの?」
声に棘を感じた。こいつらは駆け引きがうまい。顔は朗らかに笑んでいても、脅しをかけることはできるのだ。
「笹井先輩かっこいいよね~。付き合ってる人いないって聞いたけど、知ってる~?」
「けっこうモテるって聞いたよ! 今までの元カノもかわいい子ばっかりって話らしいよ」
口々に話す面々の後ろで、クイーングループでは控えめな方の女子が黙って聞いている。なるほど、あんたの本命なわけだ。すっとぼけて言う。
「ん~別にただ昼休み一緒だっただけで、普通の先輩後輩だから、私はあまりよく知らないなあ。ねえ?」
隣にいた友人たちに話をふった。彼女たちだとて、この空気が分からないわけではない。一緒になってキャーキャー言っていたのに、皆同じようにとぼけ始める。
「へえ~、じゃあ笹井先輩に恋愛感情とかないんだ?」
瑛里奈はストレートに聞いてきた。さすがクイーンだ、手加減なし。友人たちの顔が青ざめる音を聞いた気がした。彼女たちは私が先輩を好きだとまだ思っているし、先輩も私を憎からず思っているだろうと予想がついているはずだ。しまった、彼女たちの及び腰の雰囲気が場に漏れ伝わってしまった。突然、友人たちは塾があるんだったなどとごにょごにょ言い出し、帰り支度を始める。内心裏切り者たちめと思うが、事実先輩のことは熨斗をつけて贈りたいほどなので、はっきり断ろうとした時だった。
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