あの頃のように

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あの頃のように

「ただいまぁ!」  細い曲がりくねった山道を越えた先。平屋建ての古びた一軒家の鍵も掛かっていないガラス製の引き戸をカラカラと開けて玄関先から声を掛けた。 「まぁまぁ、お帰りなさいヒロちゃん。ケンちゃんも久しぶりねぇ」  記憶よりも小さくなった祖母がニコニコと奥の部屋から出てきて迎えてくれる。 「おばちゃん、久しぶり」  幼なじみから家族になった彼は昔からの呼び方で挨拶をしてから自身の胸元へ視線を落とした。 「ばっば?」  彼の腕には話し始めたばかりの小さな息子が抱かれている。 「そ、大ばぁちゃんだよ」  頷く私に、小さな瞳がくるんっと周りを見て笑顔が咲く。 「お、ばっばっ」 「はい、初めまして。ヨウちゃんお話し上手ですね」  シワシワの顔をさらにしわくちゃにして微笑む祖母と、つやつやホッペにピカピカ笑顔の息子の姿に、私と彼は幸せに満たされる。 「中へお入り、疲れたでしょう。お茶にしようねぇ」 「お土産にばぁちゃんの好きな葛まんじゅう買ってきたよ」 「ありがとう嬉しいわ」  祖母の誘いに彼と息子と三人で上がり込む。 「ぉで、え」 「ん?」 「ぉおでぇ」  彼の腕の中から息子が玄関を振り返りニコニコと手を振っている。 「ぉおでぇ」 「〝おいで〟じゃないか?」 「おいで?」  当然、視線の先の玄関には自分たちの靴が並んでいるだけで誰も居ない。祖母は猫や犬を飼ってないし、田舎あるあるのタヌキやイタチ、昆虫の姿も今はない。 「ぉおでよぉ」  ニコニコと手招きする息子を見ながら、ハッと自身の幼い頃の記憶が甦る。
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