空を見上げて

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 もう、二度とここには来ないんだな、と振り返って校舎を仰いだ。一年程しか通えなかった高校はまだ親しみも思入れもない。  改めて校舎に背を向けて足を踏み出した、その時── 「矢澤(やざわ)」  振り返ると同じ天文部だった田中(たなか)(そら)が走ってきた。彼は同じ部活だったが、そこまで話していない同級生、との認識しかない。彼に限らず、人見知りの僕はあまり話す人はいなかったのだけれど。  校舎の影が校庭に差し込んでいて、日陰で運動部が休憩していた。  田中はあっという間に僕の元へたどり着いて、息を切らさず切り込んできた。それが羨ましくて、俯いた。 「お前、学校辞めるのか?」 「……なんで?」  驚いて反射的に顔を上げる。  なぜ話していないのに知っているのだろう。  彼に限らず、誰にも高校を中退するとは言っていないのに。  ──中退と言っても別に、変なトラブルを起こしたわけではない。  理由は一つ。死ぬからだ。去年の冬、僕は突如、体育の授業中に倒れてしまった。主治医の先生や母さんに直接言われたわけではないが、おそらく心臓病だろう。便利で、残酷な結果を知ることができるスマホで調べたらアッサリと分かった。  倒れたあの日から急遽入院するようになり始まった治療。  だが、それは意味のないものになるだろう。僕は近いうちに死ぬ。本能がそう告げている。  だから──もう、無駄だから。僕は退学する。今日は必要な書類を出しに外出許可をもらってきた。それだけだ。  田中は黙りこくっていたがしばらくして遠慮がちに言った。 「……体調、大丈夫か?」  そっか。倒れたときの一連の騒動を知っているのか。  救急車が出動した騒ぎだったし、授業中だったのであっという間に噂は広まっていたのだろう。普段目立たない僕が突如思わぬ形で目立ってしまっていたようだ。 「……まぁ」 「……んで、辞めるのか」  話が振り出しに戻った。  まぁいいや。どうせもう戻ってこないのだから。  この身体になってから僕は何もかも諦めるようになった。  なーんかさ、ボク疲れちゃったんだよね、どうせ死ぬのに頑張らないといけないのに、と子供っぽい口調で心の中でぼやく。 「そーだよ」  田中の表情を見据える。強気な瞳にツンツンヘアー、天文部というより運動部にいそうな雰囲気だ。最後の日にして初めて彼の顔をちゃんと見た。
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