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30年後。
鏡やガラスを避けるようにしながら走るうち、公園にたどり着いた。ここなら私を映すようなものはないだろう。
先ほどまで降っていた雨はいつの間にか止んでいた。
ふと気づけばポケットの中で携帯が震えている。手に取り画面を見た瞬間、私はそれを思い切り遠くに投げ捨てた。画面の背景の黒い部分が鏡のようになり、そこに私が映っていたからだ。
どうしよう。いったいどうすればいいんだ。
この数日、鏡の中から私を追いかけてくるあいつは何者だ?なぜ私を追う……。
と考えるうち、不意に遠い記憶が甦った。
母と田舎に泊まりに行ったときのことだ。
確か、鏡を見て、そこに映った男と友だちに……。
ああ。なんてことだ。
奴じゃないか。鏡の中で私を追ってくるのは、あの時のあいつだ。
あの日を境に母は実家に寄り付かなくなった。必然的に私もそうなった。
だからあいつは、30年かけてW県から追ってきたということか。
「久しぶりだね」
唐突に聞こえた声に振り返った。だが誰もいない。辺りを見回していると、
「こっちだよ」
その声で足元を見た。
水溜りができていた。
その水面がまるで、鏡のように凪いでいる。
その中で奴は右手を差し出した。
「さあ、次は君の番だ」
その手はしっかりと私の足首を握っていた。
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