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「よかった。じゃあ、今日はもういいから。ほら、誰かに見つかるとまずいしね。もう行くといい」
肯いて、蔵を出て行こうとする私に、
「ああ、ちょっと。この鏡台は元通りにしておいてくれ。それから、このことは誰にも言っちゃだめだよ。僕たちだけの秘密なんだから」
言われたとおりにしてから、私は蔵を後にした。
それから毎日蔵に忍び込み、鏡を覗き込んだ。うれしそうに笑う男の表情を見れば、子供ながらに私もなんだか幸せに感じた。
初めて鏡を見てから七日目のことだ。
その日も蔵は開きっぱなしになっていたので、私は人目を忍んで蔵に入った。
鏡台をこちらに向け、かけられていた布をめくりあげる。
私の背後にいる男が満面の笑みを浮かべていた。
そのときだ。
「こら!なにしてる」
どたどたと乱暴な足音がしかたと思うと肩をつかまれ、鏡の前から引きずり離された。そのまま蔵の外に放り出されると、怖い顔をした祖父が私を見下ろしていた。
「タケヒコ。お前、あの鏡を見たのか?」
怒られたことに萎縮した私は無言で肯いた。
「あいつは?あいつは見たのか?」
たぶんあの男のことだろう。もう一度肯くと、祖父は狼狽した様子で私の前にしゃがみこんだ。
「いつからだ?今日が初めてか?」
首を振ってみせた。
「じゃあいつからだ?」
「一週間くらい……」
私の言葉を最後まで聞かずに祖父は立ち上がると、
「おーい。誰か。来てくれ。大変だ」
その声を聞きつけた祖母がやってきた。祖父から小声で何かを告げられた彼女の目が見開かれ、それが私に向けられた。
「まあ、大変……」
祖母が声を漏らすのと同時に、母がその場にやってきた。
祖父母の様子がただならぬ気配を発していることに気づいた母が「どうしたの?」と二人を見る。
祖父が母に説明をする。彼はだんだんと興奮してきたのか声が大きくなり、その内容が私の耳にまで届く。それを要約するとこんな話だった。
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